第2話 神様の学び舎-それは友情を育む場所
部屋の中央でミルとユウの二人が手を繋ぎ、祈りを捧げる。
「え? うわ!」
目を開けられないほどの光が広がり、カルは思わず目を瞑ってしまう。
「カル、ほら」
「何があったの? 急に眩しくなるんだから……あれ? ミルは?」
ユウの声にカルが目を開けると、ミルの姿がどこにも見えなくなっていた。
「ミルはね、ここだよ」
ユウは親指で自分の胸を指す。
「……もしかして、食べちゃったの?」
「あはは、そんなようなものかも。まあ、見てて」
今度はユウが手を軽く握り、祈る……
「え、えっ、ミル!」
ユウと手を重ね合わせた状態でミルがそこに現れた。
「カル、ただいま。びっくりした?」
「急にいなくなるんだもん。びっくりしたよ。どういうことか説明してくれる?」
ユウとミルはカルに自分たちのことを伝える。
「……二人は元々一人ってこと?」
「うん、私は生まれた時からユウの中にいたんだ。ずっと外に出ることはできなかったんだけど、ここに入学する前に突然ね。ねえ、ユウ」
「三日前かな、目が覚めたら隣に女の子がいるんだもん。驚いたよ。でもね、ミルって事はすぐにわかったんだ。ずっと一緒だったからね」
ユウとミルは改めて手を繋いだ。
「ミルって出入り自由?」
「うーん、起きているときはユウに頼んで出してもらっているけど、眠る時にはユウの中に戻っているかな」
ユウはうんうんと頷いている。
「これがユウとミルの能力?」
「よくわからないけど、そうかも。でもね、嬉しいんだ。これからは、ユウを通してじゃなくて自分でいろんなことができるんだよ。楽しみで仕方がないよ」
喜ぶミルをユウは優しい目で見ている。
「それでさ。さっき先生との話を聞いて驚いたんだけど、カルが生まれたばかりってほんと?」
「うん、そうだよ。気が付いたら体育館の入り口に立ってたんだ。それで、楽しそうに中に入って行く二人が見えたから、ついていったというわけ」
「生まれてすぐなのに、よく、自分がユキヒョウだってわかったね」
カルはうつむいてアゴに手をあて考えている。
「……それは、最初から知ってたみたい。うん、色々と知ってる」
顔をあげたカルは、ユウとミルに自分のことを話しだした。
「なるほど……ミル」
「うん……ユウ」
ユウとミルが目で合図をする。
「え? いや、やめてよ……」
いつの間にか、ミルの手にはふわふわの毛の付いた通称猫じゃらしが握られていた。
だからネコじゃないんだってばと言いながらも、その動きを目で追ってしまうカル。
「ほら、ほら、」
次第に大きくなるミルの動きに、カルの体は反応を止められないようだ。
「えい! この!」
「ユウ!」
カルの俊敏な動きに捕らえられそうになったミルは、すんでのところで猫じゃらしをユウに渡す。
さらに白熱する三人の動き。息もぴったりにユウとミルはユキヒョウの獣人であるカルを翻弄する。
「はぁはぁ、もう少しだったのに……ふ、二人がかりは卑怯だぞ」
カルは部屋の中でうつ伏せに倒れ込んだ。疲れ果ててしまったのか、大きなシッポもペタンと床についてしまっている。
「あはは、だから俺たちは一人なんだって」
ほらと言って、カルに手を貸すユウ。カルはその手を借りて起き上がる。
「はぁはぁ……楽しかった。二人ともありがとう」
「どういたしまして……あれ、ミル、眠いの?」
目をこすりながら、ミルはうんと頷く。
ほらといってユウが手を出すとミルがその手を握る。
「カル、おやすみなさい」
「え、うん、おやすみ」
ミルは光と共にユウに吸い込まれてしまった。
「寝ちゃったの?」
「うん、カルに会ったのが嬉しかったみたいで、ずっとはしゃいでいたから」
「そうなんだ。僕も二人に会えてよかった。ふふ、それにしても、ユウってミルのお兄ちゃんみたいだね」
「お兄ちゃんか……ミルも自分の一部なんだけどな」
ユウは自分の胸を抱きしめる。
「俺、不安なんだ。これまで自分の中にいたミルが突然出てきて、この先一人でどこかに行ってしまうんじゃないかって……」
カルはユウの肩を抱く。
「あんなに息ぴったりなのに、ミルがユウから離れるわけないじゃないか。心配するなって」
「そ、そうだよな。さあ、俺たちも寝ようぜ。明日から早速授業があるみたいだからな」
翌日から始まった神になるための授業、生徒たちは真剣な表情でT-168の話を聞いている。
「一口に神と言っても様々だ。みんな、周りの同級生を見てほしい。色々な姿かたちのものがいるだろう」
生徒たちは互いの姿を確認する。
「精神体のものは種族を越えた願いによって、肉体があるものはその同じかたちをした生命体の願いのよって生み出されていることが多い」
生徒はメモを取ったり、頷いたりしながら知識を自分のものにしようとしている。
「ここで一つ質問をしよう。君たちは、望まれた願いを叶えさえすればいいと思っているかもしれないがそうではない。どういうことかわかるやつはいるか?」
「……」
生徒たちの中にわかるものはまだいないようだ。
「ふむ、これは過去にあった本当の話だが、とある世界のとある星に肉食動物の願いによって生み出された神がいた。その肉食動物の狩りの成功率は低く、日々飢えに苦しんでいたそうだ。そこで神は力を使い、肉食動物の狩りの対象である草食動物の足を遅くすることにした。当然捕まえやすくなるから、肉食動物は飢えることはなくなったのだが、結局すぐに肉食動物も神も滅んでしまった。なぜだと思う?」
「草食動物が狩りつくされたから?」
「簡単に捕まえられられるようになって、努力しなくなったから?」
「他にも要因はあるが、概ねそんなところだ。そこで、今日はその神がどうすべきだったのか考えてみてほしい。三人ずつのグループになって話し合い、あとから発表してくれ」
生徒たちは、カードの指示通りに集まり話し合いを始める。
「僕からいいかな。狩りは達成感も大事だから、獲物の足を遅くするのはダメだと思うんだ」
教室の右後ろの席では、いつもの三人の声が聞こえる。
「猫じゃらしの時のカルは、本気でやった時の方が喜ぶもんね」
下を向き頬をかくカルにユウとミルが笑いで返す。
「それなら、草食動物を増やしたらどう? 獲物が増えたら狩りもしやすくなるんじゃないかな」
うんうんと頷くカル。
「俺もミルの言うことに賛成。それで、草食動物を増やすには――」
教室のあちらこちらで白熱した議論が繰り広げられる。
生徒たちは分かっているのだ。失敗してしまったら自分たちが滅んでしまうということを……
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