黒のトリアージ

 時計を見ると3時13分59秒。爆発一秒前だ。

 やるべきことは分かっている。

 行動を開始すると爆発音がした。

 時間がない。

 すぐにコンクリート片が飛んでくる。

 今までの経験から安全な場所は分かっている。そこならかすり傷程度で済むはずだ。

 彼女を引き寄せ、自分のいたほうへと突き飛ばし、反動で自分が彼女の位置へと移動する。

 予定通りコンクリート片が飛来してきて、僕の頭蓋骨を叩き割った。

 彼女は僕のそばでいつまでも泣いていた。

 やがて救急隊員が現れた。

 一目見ただけで分かる。

 即死だった。

 救急隊員は動かなくなった僕の体の上に黒のトリアージタッグを置いて去っていった。

 黒のトリアージは死亡もしくは助かる見込みのない人に付けられるものだ。

 何も聞こえない、静寂のなかで黒ずくめの男の声がした。

「おめでとう! 他人を助けて亡くなったお前の魂は崇高なものとなりました。最初はクソみたいな魂だったけどな」

「もう彼女が不幸な目に会うことがないですよね」

「サービスでこの先の世界を見せてやるぜ」

 映し出されたヴィジョンには、僕の死を乗り越えた彼女が新しい人生を歩み、僕以外の伴侶を見つけて幸せに結婚生活を送っている姿が映っていた。

「彼女が死んだときお前は自殺したのに、彼女はちゃっかり他の男に乗り換えてるね。どうだい今の心境は?」

「いいんだ。彼女が幸せでありさえすれば……」

「ふふふ、それでこそあのお方の見込んだ上質の魂の持ち主」

 男は満面の笑みを浮かべて言った。

「さあ行こうか、君はあのお方のそばに行く資格を得た」

 砂埃の切れ目に青空が顔を覗かせた。一筋の光が地表に伸びてそれはまるで天国に架かるハシゴのようだった。

 男に連れられ僕は天へと昇り始めた。


(了)

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クロノトリアージ 楠樹 暖 @kusunokidan

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