黄のトリアージ
時刻は3時4分。爆発の10分前だ。
まだ余裕はある。しかし、このフロアにいては危険だ。
かといって、他のフロアが安心である保証はない。
過去二回の状況から安全な場所は分かっている。
爆発物が飛んでこない壁の陰。そこに移動してじっとしていなくては。
コンクリート片や金属片が飛んでこない壁。記憶を探り、最初のときに残っていた壁を探し出す。見つけた!
この壁の後ろにいれば大丈夫だ。
彼女の手を引き壁の後ろに移動する。
まだ時間がある。彼女がここを離れないようにしなくては。
3時14分、爆発の音がした。
ガンガンと打ち付ける飛来物。
端の方から崩れていく。
大丈夫だ。前に見たときには二人くらいの大きさは残っていたはずだ。
ひとしきり攻防が収まり、土煙だけが僕らの障害となった。
助かった!
と思ったのもつかの間、天井がガラガラと崩れだし、彼女の上へと襲い掛かった。
「きゃあ!」
天井のパネルの一部が彼女の右腕と両脚を万力のようにプレスする。
痛みのため彼女は意識を失った。
重いパネルを何とかどかすと複雑にカタチを変えた四肢の四分の三がそこにあった。
救急隊員が現れて彼女の上に黄色いトリアージタッグを置いた。
長い時間のすえ病院へと運ばれた彼女。助かった命の代償として利き腕と、一生続く車椅子生活を余儀なくされた。
命が助かっただけでもいいじゃないかと言っても彼女は暗い顔のままだった。
車椅子に慣れたころ、彼女は一人で出かけると言いそのまま帰らぬ人となってしまった。
目撃者の証言では、踏切が降りているにもかかわらず線路に侵入し止まっていたらしい。
グチャグチャにひん曲がった車椅子が彼女の最後を物語っていた。
事故現場に花束を置きお祈りをする。黄と黒の遮断機が下りてカンカンカンカンと警報を鳴らした。
ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
もうやり直すことはできないのか。
せめてもう一度……。
「時よ止まれ……」
僕以外の動きが止まり黒ずくめの男が現れた。
「あーあ、自殺したクソ女の魂なんて本位じゃないんだけどな」
「お願いだ! もう一度チャンスを! もう一度だけでいいから」
「こっちとしても上質の魂が欲しいところだ。ふふふ、いいぜ。これが本当のラストチャンスだ」
男は不敵な笑みを浮かべて一枚の黒いカードを差し出した。
それを受け取るとあの時間まで戻ることができた。
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