緑のトリアージ
僕たちは人混みの中を歩いていた。
時刻は? 2時14分。爆破テロの1時間前だ。この時間ならまだセンタービルへ着いていない。
この時間、僕らはセンタービルへ向かう道路を歩いていた。
近くで有名なアイドルが来ているということで道は多くの人で埋め尽くされていた。
身動きが取れず、このままではセンタービルへと近づいてしまう。
それだけは何としても避けなくては。
「この先は危険だ!」
僕は彼女の手をしっかり握り、絶対に離さないようにした。
そして、人混みの流れに逆らって反対方向へ向かおうとした。
その時、僕らが押しのけていた人たちが倒れ始めた。
将棋倒しになり次々と倒れる人が広がっていく。
倒れても後ろからくる人たちの流れは止まらずに倒れた人の上に折り重なって倒れていく。
僕らも倒れて身動きが取れなかった。ようやく立ち上がった時には彼女はお腹を圧迫されていたのか気分が悪いと言ってしばらく横になっていた。
救急隊員が現れ彼女にトリアージタッグを置いていった。緑色だった。
結局その日、爆弾テロは起きなかった。おそらく
将棋倒し事件は最終的に数百人が巻き込まれ死者も二桁に登った。
やがて、人混みの様子を映していた動画が出回り事件の原因となる人物を特定した。僕らである。
僕らは酷いバッシングを受けた。
事件を起こした張本人がピンピンしていて、関係のない人が亡くなったからである。
数か月に及ぶ執拗な非難に彼女はノイローゼになり遂に自殺をしてしまった。
彼女が首を吊った木には緑の葉が生い茂っていた。
いったいこんな結末になるなんて誰が想像したのだろうか?
いやあの男は知っていたのかもしれない。
「時よ止まれ!」
僕以外のすべての時間が止まり、黒ずくめの男が現れた。
「さてカードは残り一枚なわけだが」
残り一枚のカードを差し出し、男はかなり嬉しそうである。
「自殺をしたクソ女の魂は地獄行き決定だ。今ならまだ間に合う。さあ、どのカードを選ぶ?」
「選ぶって言ったって選択肢は一つしかないじゃないか」
僕は黄色いカードを手に取った。
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