そして事件はフィナーレに向かう ⑵


(絶頂を迎えた後の、微妙な空気感が苦手だ)


 テオは、まだ何処か呆然としている女性の腰を抱き、街外れへと向かっていた。


「私たち、ずっと一緒にいられるよね?

 もうそろそろ、家族に紹介しても良い?」


 甘えるように擦り寄ってくる女性の頭を撫でて、テオは優しい笑みを浮かべた。


(本当に面倒臭い。ちょっと抱いただけで、すぐに自分のもの扱いだ。

 家族に紹介、ね。

 この娘とも、今日でバイバイだな)


 テオは、いつもの様にコートのポケットに手を突っ込み、足を止めた。


 それに気付いた女性が、不思議そうな顔をして振り返る直前、テオは隠し持ていったナイフを女性の背中に突き立てる。


 深く深く。


(巷では快楽殺人鬼とか言われているそうだけど、実際はどうなのかな?)


 彼自身、よく分かってなかった。


(気持ち良いことはしたいけど、それが済めば、一気に興味は削がれる。

 自分から擦り寄って来たくせに、数回行為に及ぶと結婚をちらつかせ、別れを切り出すと、泥沼化する。

 ほんっと、面倒くさい)


 声を上げようとした女性の口を左手で塞ぎ、テオは絶命するまで何度も何度もナイフを突きたてた。


 女性が動かなくなると、ナイフと手袋をコートのポケットにしまった。

 そして、そのコートを脱いで逆折りに丸め、鞄にしまい、鞄から出しておいた新しいコートを羽織り直す。


(それに比べて、ロラは便利だった。

 地味で大人しくて、全部僕の言いなりで。

 事実婚を言い出したら、金も簡単に引き出せた。

 でも、それも今日でお終い。

 いつも通りベッドを血で汚し、今日は玄関先にナイフでも落としておくか)


「……テオ?」


 不意に後方から聞こえた声に、テオは目を剥く。


(何故? 睡眠薬は確かに入れたはず。

 まさか、飲まなかったのか?)


 今日に限って、お茶を飲み干すのを確認しなかった自身に歯噛みする。


 だが、彼はすぐに考え直した。

 

(いや。待て。

 前回、同様のことがあった時は、気絶させて家まで運んだんだ。

 そしたら、その時のことをすっかり忘れて、血で汚れたもの全て、僕に言わずこっそり処分してくれた。

 その後は、彼女を犯人に仕立てるため、女を殺した後、必ず寝具を血で汚しておいた。

 きっと彼女は、自分が殺人犯だと勘違いしているはず。

 それなら、自発的に この罪も被ってもらおう……)


「ああ! ロラ。なんてことだ。

 この女は、君が連続殺人犯だと……バラされたくなければ、君と別れて自分と付き合う様にと迫って来たんだ。

 だから……こうするしかなかった。

 僕は、君を愛しているから!」


 ロラはふわりと微笑んで、ゆっくりとテオに歩み寄った。


 テオは勝利を確信する。


(彼女は、僕を盲信的に愛している。だから、僕を殺人犯にしないため、自分がやったと言うだろう)


「私も愛しているわ。テオ」


 ロラはテオの胸に飛びこみ、テオはロラを抱きとめた。


「私のために、女たちを殺したのね。

 私と一緒にいることだけを願って……」


「そうとも。全て、君だけを愛するが故に」


「嬉しい」


 ロラは涙を浮かべてテオを見つめ……手にしていたテオのキャンプナイフで、彼の胸をついた。


「でも、神は殺人それをお許しにならない。

 貴方の罪は私の罪。

 だから、罪深い私たちは、一緒に逝きましょう」


 テオは目を見開いて、その場に崩れ落ちる。

 ロラは、テオから抜けたナイフで自身の首を切り、その場に崩れ落ちて、テオを抱きしめた。


「愛して……いるわ」



 空から白い雪が舞い降り始めた。



 深夜。

 周囲を捜索中の警察官が、雪に埋もれた男女三人の遺体を発見。

 事件は、急展開を迎えた。

 

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