第95話 風呂で
「ゆき、矢沢さんに会いたかった?」
体育座りの背中に聞いてみた。
「ん?えいちゃん?
う~ん、そうだな~、会いたかったような会いたくなかったようなって感じだったかな。
えいちゃんとは、結婚前の同級会で会ったのが最後だったから、あれからだいぶ歳をとったしね。
きっと、えいちゃんは、今でもアイドルみたいにお変わりなくかっこいいんだろうなぁって思うけど」
たしかに。
矢沢弘人は、昔と変わらずに、若くてイケメンだったな。
「私は、アラ40のオバサンだしね。
あんま、会いたくなかったかもな。
えいちゃんじゃなくて、お母さん来てくれて、ホッとしたって感じだったよ。
なんか、席が隣りだったから」
「アラ40のオバサンなんてことないよ!!
ゆきは、結婚前と変わらずにキレイだよ」
と俺が言うと、はいはい、ありがとうございます、と笑った。
「田坂さんとは、久しぶりだっけ?」
「あ、うん。
たぶん、峻が1、2才だったのかな~。
初めて峻を連れて新幹線に乗って長野に帰って、その時の同級会で会ったのが最後かな~。
たぶん8年くらい前になるかな?
その時も、太った?なんて言ってたけど、それよりも一段と大きくなってたよ~」
大きくか。
だいぶ、デカいって感じだけど。
結婚して4年目くらいの同級会だよな?
あの日、俺は横浜アリーナへoneの来日公演へ行ってたんだ。
そう言えば、あの時の同級会の話って、詳しく聞かなかったな。
「あれっ?その同級会には、矢沢さんは来てなかったんだっけ?」
「うん、欠席だったね。
あぁ、その時にね、えいちゃん離婚したんだってよ!!って、友達に聞いたけど」
えっ?
あの時に、もう知っていたんだ?
「離婚したの知って、会いたいとは思わなかったの?」
と、俺が聞くと、えっ?って振り返ってこちらを見た。
「離婚した元カレに会ってどうすんの?
あははっ!!
前に、とおるが私のことサバサバしてて、男っぽいし、いさぎよすぎるって言ったけどさ。
わたし的には、もう終わったことにはこだわらないってゆうか、えいちゃんが結婚しようが、離婚しようが、それは私にはもう関係ない話かなって思うから」
「そっか」
終わったことにはこだわらない、か……
裏を返せば、終わってないことには、こだわるってことになるのかな。
田坂が言っていた。
告白をしてもいないし、告白されてもいない、
って。
だから、その想いは、終わっていないってことなんだろう。
「ねぇ、ちょっと のぼせそう。
髪洗うけど、とおるは大丈夫なの?」
「あぁ、俺 もうあがるわ」
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