第82話 柚希 対 敷石ケ濵

 えっ、マジで、俺 緊張してヤバい!!

俺がやる訳じゃないのに!!

ってか、こんなに緊張してるのは、ここ最近ではないな……

あ、結婚式の時、俺は 吐きそうなくらい緊張してて、柚希は全然緊張してないって。

むしろ、うれしいって笑ってたな。

俺よりも、柚希の方が、肝が座っているし、度胸がある。

今も、真っすぐに前を見すえて、背すじをピンとして正座してる。


 

審判の旗とか、ストップウォッチの準備ができた。


柚希と敷石ケ濵は立ち上がった。


主審をしてくれる上条先生が、4分でいいかな?と聞いて、2人は、はい!と答えた。



お互いに竹刀を構え、上条先生が


「はじめ」

と、言ったと同時に、2人は気合いの声を出した。

 

あの時と同じ展開。


柚希がドンドン攻める。


敷石ケ濵が、よける、かわす。


今、対している敷石ケ濵には、流れが見えているのだろうか?


わ!今の!柚希のすり上げ胴!すごく良かった!!


副審の中山先生が赤旗を挙げたが、上条先生と、下嵜先生は、旗を交差させた。

つまり、却下って意味。

 

少し慣れたのか、敷石ケ濵も攻めに転じてきた。


敷石ケ濵が面を打ってきたが、浅い当たり。


小手を打ってきたが、柚希は抜いて面を打った。

こちらの面も浅かった。

 

これ、全然ブランクを感じさせない。


あの時の大会の続きって感じ。


中野先輩は、本来仕掛け技よりも、応じ技の方が得意だ。

攻めてはいても、相手が打ってきたものを返すか、払うか、抜いて打つという応じ技のスピードがとても早い。

ってか俺! 今、普通に “”中野先輩“” って思ってたわ!!

そのくらい、柚希は、昔と変わらない剣道をしている。

敷石ケ濵が手を抜いているってこともない。


両者決まらず、延長戦になった。


この展開も同じか。


柚希が秒殺されるかも、なんて考えたことを謝りたい。


「延長 はじめ!」


惜しい!!

あ!これも惜しかった!!


う~~ん、これは、どう攻め崩したらいいだろうか……

俺だったら……


と、思った瞬間、柚希の動きが止まった。

大きく竹刀を頭の上に挙げた。


えっ…………


上段の構え


しかも、左足を前に出した。


これ……田坂と同じ……

左上段の構え


その構えから、左手だけの片手打ちで敷石ケ濵の面をとらえた。


パッと3人の審判の赤旗があがった。







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