第81話 やるの?

 「やるの?剣道?」

俺は、柚希に聞いた。


「うん、敷石ケ濵さんせっかく来てくれたからね。

私がやらない限り納得しないんじゃない?」


借りるねと、智奈の防具袋から垂れと胴を出して、つけながら言った。


「でも……」


でも、嫌なんじゃないのか?

敷石ケ濵とは、もう2度とやりたくないって、

そう思ってんじゃないのか?


「あの時みたいに簡単に負けたりはしないから」


えっ?

かっこいい!!

ねーー!!なに?

今の、ゾクッとしたんだけど!!


「とおる、ちょっとだけ切り返しと面打ち受けてくれる?」


「あ、あぁ! 了解!」


マジか!

柚希の相手をすることができるなんて、うれしい!!


敷石ケ濵も、防具をつけ始めた。


「じゃ、アップにつきあいますか?」


そう言って、隼も防具をつけた。


それを見て、親父も先生方も 手と足を止めて、なんだなんだと、ざわついた。


垂れのところの名前を見て、

敷石ケ濵って、あの敷石ケ濵? 

って。

敷石ケ濵は、先生方も知っているくらいの有名人。



柚希は面をつけると、小手をつけて竹刀を持って立ち上がり、

「お願いします」

と、俺に言った。


なんか、さっきまでと雰囲気がガラッと変わった。

スイッチが入るんだよな。


剣道の基本、切り返し


久しぶりに聞いた柚希の気合い。

普段の柚希からは想像できないくらいの デカい声。


早い!!

そして、正確な左右面。

抜けるスピードも早い。


わ!!

俺、マジで、マジで、超うれしい!!


お手本みたいな、きれいな面打ち。


あれっ?

でも、やっぱり俺には、川の流れは見えない。

 

田坂のが見えたから、柚希のも見えると思ってたんだけど。

なんとなく感じることはできるけど、やっぱり見えない。

う~ん……


まっ、それはいいや!!

今は、柚希に面を打たれることに集中しよう。


スパーン!!って、入るんだよな~!!

気持ちいい!!

 

何本かやって、蹲踞そんきょして終わらせた。


そして、面をつけたまま、正座して敷石ケ濵のアップを見ていた。


隼が受けているけど、身長差がかなりある。

だけど、敷石ケ濵の面打ちは、近づくと竹刀が急に伸びたんじゃないか?ってくらいに、パコーン!!と入る。

なんだか不思議な感じだった。

スピードは、それほど早いとは思わない。

でも、あの高校の大会で見た敷石ケ濵の試合は驚異的だった。

1回戦の柚希との試合のあとの、決勝までの4試合は瞬殺だった。

なんてゆうのか、

“”なにもさせてもらえないうちにやられてる“”

って感じで、みんな秒殺されていた。

今の柚希は、そんな風に秒殺されてしまうだろうか……


“”あの時みたいに簡単に負けたりはしないから“”


って、さっき言ってたけど……

あの時は、延長戦まで戦ってたから、簡単に負けたわけじゃなかったけどな……


敷石ケ濵も蹲踞そんきょして終わらせ、正座した。


俺は、親父のところへ行き、試合をするから、審判をお願いできますか?と聞いた。

親父は、身内びいきになってはいけないから、と、3人の先生方に審判を頼んでくれた。


どうせなら、と、赤白のタスキもつけて、ストップウォッチで時間も計ることにした。

ちょうど座っている場所からして、柚希が赤、

敷石ケ濵が白。

くしくも、あの時と同じ色のタスキになった。


いや、緊張感ハンパない!!

自分がデカい大会に出る時よりも緊張している。


あっ!峻と奏をほったらかしだったけど、どうした?

キョロキョロと、目で探すと、保護者のお母さん達が気を遣って一緒に座ってみていてくれてる。


初めて見るママの剣道の試合は、息子たちには驚きだろう。


とりあえず、息子たちは保護者さんにお願いして、俺は柚希の試合に集中しよう。



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