第80話 剣友会 3

 素振りが終わって、このあとは面をつけての稽古になる。

俺も面をつけて、先生方の補助的な指導をする。


さすがに、奏が面をつけるのもなんだし、隅の方で隼に面倒を見てもらうとして、柚希はどうするかな?


「ゆき、面つける?」


「ううん、こっちで隼くんと、峻と奏の相手をしてるよ」


「そっか。じゃ、俺は やってくるね」


「はい、頑張ってね~!

峻も奏も何気に、パパが剣道やってるところ見るの初めてだから、かっこいいところ見せちゃって!!」


う~ん……

やっぱ、柚希はやらないか。

うちの親父や、先生方にも気を遣うしな。

無理にやらせることじゃないけど、なんかな……

見たかったな、柚希の剣道。


そこから1時間くらい、小学生や中学生を相手に掛かり稽古をした。


それで、一旦子供たちは終わりで、そのあとは大人たちの試合稽古になる。

子供たちは、帰ってもいいし、見取り稽古で見学するでもいいし。


それをやろうとしていたところへ、1人の見知らぬ女性が防具袋を担いで入って来た。


「えーーーーっ!!!!なんでーーーー?」

と、隼がデカい声で言った。

その女性は、隼と柚希のところへ直行した。


敷石ケ濵だった。


隼のインスタを見て、すっ飛んで来たのだと。


“”兄夫婦と甥っ子ちゃんと、久しぶりに剣友会にきてる“”

って載せただけなのに、場所をつきとめて駆けつけて来たそうだ。


兄夫婦って言ったら、柚希ちゃんがいるってことでしょ?って。

柚希のストーカーかよ?


そう思った瞬間、くるっと振り返って、俺にズンズン近づいてきた。


「はじめまして。わたくし敷石ケ濵亮子と申します。

佐古高校で、剣道部のコーチをさせていただいております。

倉田先生には大変お世話になっておりまして、まさかお兄様の奥様が中野柚希さんだったなんて、びっくりで!!

以前、大みそかに柚希さんとランチさせていただいたんですが」


すっごい早口!!

今、俺 全部聞き取れたかな?


「倉田亨です。

弟がお世話になっております。

私は、柚希の1年後輩ですので、あなたより年下ですから、敬語じゃなくて結構です」


「あっそうなんだ?」


と、途端にタメ口。

まぁ、いいんだけど。


今度は、ドタドタと柚希のところへ走って行って、やろうよ!やろうよ!ねっ!お願い!!

って拝んでる。


「ね~私、敷石ケ濵さんのお相手できるほど強くないって!!

部活引退して以来、今日20数年ぶりに竹刀握ったくらいなんだから!」

って、柚希の声が聞こえた。


柚希と剣道をしたくて来たってこと?

 

これ、マジで見てみたい。


あ、いや、もう剣道から遠ざかっている柚希が、絶対的に不利か……


「う~ん、はいはい、わかったよ!

じゃ、やろうか」


えっ?

えっ…………

やろうか?って言った?

やるの?

剣道?

敷石ケ濵と?

マジか!!

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