第79話 剣友会 2

 剣友会の子どもたちは、1列にならんで、素振りを始めた。

二挙動、三挙動、早素振り。

先生方が指導してくれる。


高1で部活に入ったばかりの頃に、柚希が指導をしてくれてたことを思い出した。


倉田くん、強いでしょ?

強いのは、見ればわかるんだけど、もっと強くなる為には、自分流になってるクセを直して、正しい姿勢を意識してみたらどうかな?


そう言われたっけ。

あれで、俺、素振りから自分のクセを見直して、もっと勝てるようになったと思う。


俺は、柚希と息子たちのところへ行った。


「峻、奏、どうかな?」


「あっ!パパ~!隼くんが教えてくれてる~」


「隼、サンキュー」


「全然いいんだけどさ、アニキが教えんじゃねーんかよ?」


「う~ん、他人ひとんち子供は教えられるけど、自分の子を教えるのは難しいな~って思って」


「あぁ、まぁな。

自分の親に教わる方の気持ちならわかるな。

まぁ、嫌だったわ」


隼は、あははと笑った。


俺は、割りと好きで自分から剣道を始めたと思う。

でも、隼と智奈は、本当はやりたくなかったのかもしれないと思っていた。


“”お兄ちゃんは、全国大会行ったのに?“”


みたいなことを言われていて、そういう比べ方をされるのは嫌だろうなと思っていた。

そもそも始めたのだって、お兄ちゃんがやってるんだから、おまえたちもやりなさい!みたいな強制的な感じだった。

隼も智奈も、峻のように “”ボクやだよ“” って言えてたら、剣道ではなくて別のことをやって、その才能が開花していたかもしれないのに。

俺が親父に教わって剣道をやることを選んでしまったから、弟妹を引き込んでしまったのかもしれない。

隼は、何気に大学でも続けて、教員になった今は部活の顧問もしているけど、この剣友会の先生方や親父に教わることは嫌なんだな。

智奈は、高校2年の時に部活を辞めた。

怪我がきっかけだったけど、怪我が治っても、剣道はもう続けたくないと泣いた。

親父は、激怒し、事あるごとに、智奈にイヤミを言う。


途中で投げ出す根性なし

これだから、女はダメだ


智奈は、根性なしな子ではなかった。

努力家で、頭が良かった。

俺とは違って、超進学校だったから、勉強と部活の両立は大変だったと思う。

それでも、限界まで頑張っていたんだ。

それを親父は認めない。


自分の子供を教えるのは難しい。

優しくするのも、厳しくするのも、どちらも違うと思う。

他人の子供のように、分け隔てなくってゆうのは、なかなか出来るもんじゃない。


「それより、ねえさん、やっぱ イヤだったんじゃね~の?

剣道にトラウマとか? 

まだ、竹刀も握らないし」


と、小声で言った。


えっ?

そうなのか?

ここへ来たのは、奏がやりたいと言ったからで、ママも一緒だよって言われたからで。


聞いてみるか。


「柚希?もしかしてイヤだった?

ここに来るの?」


「えっ? そんなことないよ。 どうして?」


「竹刀も握ってないじゃん? 

素振りを教えるのは、隼よりも柚希の方が上手いと思うんだけど?」


「あはは!私が教えるよりも、隼せんせいの方が適任だよ!!」


そう笑ったが、仕方がないと思ったのか、竹刀を握るとブンブン早素振りを始めた。


はえーーーー!!!!

こんな早かったか?

こんなブランクあっても、この動きができるんだ!!

すげーな!!


「えっ?ねえさん!!すごいっすね!!」


「わぁ!!ママのそれ、奏もやる!!」

と、奏も言ってやろうとしてる。


「奏、これは超ムズいから、奏は違う素振りをやろうな!」

と、隼が言ってくれた。


俺はただ 見とれていた。

素振りだけでも、昔と変わらない、きれいな剣道だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る