第74話 剣道のセンス

 次の朝、早く目が覚めた。

というか、あまり眠れなかった。

昨日の誤解を、まずは弁明したかった。

だけど、具合いが悪いと言って、寝ている柚希を起こしてってゆうのは、余計善くない方向にいきそうだし。

今日は、早番だったから5時には家を出ないとならない。 

柚希を起こさずに、そうっと家を出た。

もしかしたら、今のこの行動だって、怪しいって思われてしまうのかもしれない。

ただ、仕事に行くだけなんだけど。

今日、帰ったら、ちゃんと、柚希に話をしよう。

浮気なんかしていないと。

俺が、浮気なんかするわけない。

柚希のことを誰よりも、心から愛しているんだから。

なんで、そんな風に思われちゃったんだ?

う~ん……

度々、嘘をついて出張だとか、研修だとか、飲み会だとかって、出かけていたか……

その分、家にいる時間が減っていた。

子どもと、過ごす時間。

柚希と、過ごす時間。


本末転倒だな……


柚希の心の奥の奥まで、俺のことを想っていて欲しいと思っていたのに、余計に心が離れてしまうようなことを俺はしているんじゃないか?


ゆきを失いたくなかったら……


矢沢弘人が言っていたのは、そういうことなのか。


早く柚希に会いたい。

なんだか、1日中気もそぞろだった。


 

 仕事からあがって、夕方家に帰ってきた。


玄関ドアを開けると、バタバタと走り回る音と、ギャーー!!ワーーーー!!ヤーーーー!!って叫びまくる奏の声が聞こえた。

リビングに入ると、目に飛び込んできたのは、奏と柚希がオモチャの刀でチャンバラをしているところだった。


えっ?

今の!!


「あっ、おかえり」

「パパおかえり~」

と、奏は俺に飛びついた。


「ただいま。今のなに?」


「今の?」


「奏、面返し胴 したじゃん?」


「あははっ!面返し胴か!

そうだね!たしかに、たしかに」


柚希は、そう言って笑った。


「あれは、仮面ライダーの技だね!」


「仮面ライダー?」


今やっている仮面ライダーが、刀を使って戦うのだと。

その技だってゆうが、それは剣道で言えば、面返し胴。

そのスピード、刀の返し方、絶妙なさばきだった。


「ゆきが教えたの?」


「あははっ!教えないよ~」


「奏、もう1回やってみて!!」

と、俺は奏に言った。


「いいよ~」

と、奏はオモチャの刀を握って構えた。

柚希から刀をもらって、俺も構えた。


「いいの?」

と、奏が柚希に聞いた。


「いいよ」

と、柚希が言った瞬間、刀をクルッと俺の刀に巻き上げて、胴を打ってきた。


思いっきり腹を叩かれた。

痛っ!!

オモチャとはいえ、防具もつけていないYシャツ1枚の腹には結構な痛みだった。


さっき柚希とやっていたのは、応じ技。

で、今のは、仕掛け技。

これ、教えてなくてやってるとしたら、すごく

剣道のセンスがある。


「奏!!すごいじゃん!!」

と、俺が言うと、にこっとした。

ね~!!マジで、柚希にそっくりな表情をするな。


「奏、ご飯にするから、オモチャお片付けしてよ~」

と、柚希が言うと、は~いと言って、サササッと片付けた。

おーー!!そうゆうの ちゃんとできるんだな。

ってか、柚希がそうゆうのを、しっかり しつけてるのか。


「ゆき、体調はどう?」


「あ、良くなったよ!

心配かけて、ごめんね」


「あ、いや、夕飯の支度一緒にするよ」


「大丈夫だよ。もう出来てるから、温めるだけ。

今日は、みんな大好きカレーだよ」


わ~い!!カレー大好き!!

と、大きな声で叫びながら、奏は峻を呼びに行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る