第75話 不満なんて

 子どもたちを寝かしつけ、柚希が寝室にきた。


「ねー!奏、すごいじゃん!!」


「そうだね。お腹 大丈夫?」


そう聞かれてTシャツをめくってみると、赤くなっていた。

でも、まぁシップするとか、冷やすとか、そこまでじゃないか。


「あ、でも、どっちかって言うと、忍者の方がハマってるよ~」


「忍者?」


今やっている戦隊モノが忍者をコンセプトにしているのだと。

戦隊モノが忍者で、仮面ライダーが刀って、だいぶ和風なんだな。


「今度、お盆休みに実家に帰ったら、親父の剣友会に、奏を連れて行ってもいい?」


「いいんじゃない。

連れて行ってみて、奏がやりたいなら やらせたら?

それは、本人次第だから」


いいんだ?

 

ってゆうか、ってゆうか!!

奏に気を取られて、ちょっと忘れてたな!!


「ゆき、昨日のことだけど。

ごめんね。

休みだってことも、実家に行くってことも、ちゃんと伝えてなくて。

そのせいで、なんか、誤解を招いたみたいで。

でも、これだけは言わせて!!

俺、浮気なんかしてないから!!

俺は、ゆきのことだけを愛してるから!!」


「あぁ、ううん、とおるが浮気してるとは思ってないよ。

思ってないんだけど、ごめん、なんか、昨日は

体調悪くて、気持ちも不安定だったかな。

お義母さんから電話きて、私 全然知らなかったから、えっ?ってなって、でも知らなかったってゆうのが恥ずかしかったから、あぁ今日はそうでしたねって、なんか、知っていたけど忘れてた

みたいな感じのフリをして。

なんか、そんな自分がすごく嫌だった。

こんな私みたいな女よりも、本当なら、とおるにはもっといいお嫁さんがいたんじゃないのかな?とか。

とおるが、私に話ができないような雰囲気を出してしまっていたのかな……とか。

ごめん。

具合い悪いからって、態度まで悪かったよね……

ごめんなさい」


なんで、柚希が謝るんだろう。

悪いのは、俺なのに。

なんで、休みなのを黙ってたの!?って、責めてくれてもいいのに。

ってか、なに?

とおるには、もっといいお嫁さんがいたんじゃないか?って。

久しぶりに聞いたけど、結婚した頃は、そんなことをよく言ってたな。


「ゆき、俺はゆきじゃなきゃダメなんだって、何回も言ってるけど。

それは、今も全然変わらないから。

ゆき、俺に対して、もっとこうして欲しいとか

不満があったら、我慢しないで言ってくれよ!

俺、鈍感で気が回らないから、ゆきにいろいろと我慢させちゃってるかも。

言われれば、気をつけるし、直すから、言ってほしいんだ」

 

「私は、とおるに不満なんてなんにもないよ。

家族の為に、大変なお仕事を頑張ってしてくれて、本当にいつも感謝してるよ。

とおるの方こそ、私に不満があるんじゃないの?」


不満……か……


この流れで、田坂朋徳を今でも好きなのか?

は、聞けないよな。


ってか、マジで、それ、どうでもよくね?


今、俺たちは、夫婦として12年も一緒にいるんだ。

これ、いままでの男たちとは全然 比にならない長さ。

俺は、無い物ねだりみたいに、なんの不満もない柚希に対して、勝手に不満を創り上げてただけだ。

本当は、柚希がいてくれるだけで、それだけでいいのに。


「ゆきに不満なんて、なんにもないよ。

いつも、おいしいご飯を作ってくれて、ありがとう。

子どもたちを しっかり育ててくれて、ありがとう。

俺のそばにいてくれて、ありがとう」


「あはは! どういたしまして」



田坂は、

“”来世では、必ず見つけて、今度こそは添い遂げたいと思っています“”

と、言った。


俺は、もしかしたら、前世でそう思っていたのかもしれないな。


前世、現世、来世


そんなことを考えたこともなかったけど、初めて会った瞬間に恋におちて、それから20年以上も。

こんなに好きなのは、そういうことなのかもしれない。

前世の記憶とかないから わからないけど。

きっと、俺は みつけたんじゃないか?

柚希のことを。

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