第73話 疑惑

 今日は、非番だった。

田坂に会うことは、柚希に内緒にしていたし。

朝、仕事に行くような時間に家を出た。


新幹線で長野に行き、タクシーで実家へ行った。

実家で昼飯を食べて、剣道着に着替え、実家にある防具と竹刀を持って、おふくろの車を借りて

体育館へ行った。


剣道場で、田坂と3時間 稽古をしたり話をして、そして車で実家に戻り、風呂に入って着替えて、新幹線で帰ってきた。


家に着いたのは、21時半だったから、まぁ普通に仕事に行ってたってことでいいか。



リビングに行くと、柚希はソファで1人、本を読んでいた。

子どもたちは、もう寝たのか。


「ただいま」


「おかえり。

お義母さんから電話あったよ。

とおるが、腕時計置き忘れて行ったけど、って」


えっ…………

マジか…………


「今日、お休みだったの?」


「あ、うん。ごめん」


「何しに実家へ行ったの?」


「あ、えっと、ちょっと用事があって」


「お義母さん、とおるが剣道しに行ったって、

そう言ってたけど?」


「あ……うん。

長野県警の松林と、稽古してきた。

大会も近いからさ」


「そうなんだ」


そう言うと、柚希はキッチンへ行った。


やべ、これ怒ってんじゃん。


テーブルに俺の食事を用意してくれた。


ご飯、味噌汁

ぶりの照焼

あんかけ豆腐

肉野菜炒め

たけのこの煮物

ほうれん草のゴマ和え


いつもながら、彩りもきれいで、おいしそう。


柚希は、グラスにビールを注いでくれた。


「今日、ちょっと、体調悪いから先に寝るね」


えっ?

怒ってるんじゃなくて、体調が悪いのか?


「大丈夫?ごめんね。具合い悪いのに、帰り待っててもらって。

食事も出してもらって」

 

「ううん、大丈夫だよ。それが私の仕事だから」


私の仕事?


柚希は、おやすみと言って、リビングから出て行った。


1人部屋に残されて、気持ちがどんよりと沈んでいくのを感じた。

柚希が作る料理は、美味しくて、いろんな栄養を摂れるような、身体のことを考えてくれてる献立で。

いつも、感謝している。

今日も、体調が悪いというのに、温かい食事を出してくれる。

だけど、それを柚希は、“仕事” だと思っているのか。

つまり、“義務” だと。


今日、俺が仕事だと思っていたから、仕事から帰ってくる旦那の為に、体調悪いのに、無理して料理を作った。

なのに、旦那は実は休みで、実家へ帰っていた。

カチンときたかもしれない。

イラっとしたかも。



俺は、何をしているのだろう。


柚希のことが大好きなだけなのに。



夕飯を食べ終わった。

残った野菜炒めと煮物にラップをして、冷蔵庫へしまった。



寝室に行くと柚希は、向こうを向いていた。

 

俺が、ベッドに入ると、

 

「お風呂は?」

と、向こうを向いたまま柚希が聞いた。


「実家で入ってきたから、もういいかな」


「そう、入ってきたんだ……」

小さな声で言った。

そのあと何も言わなかったから、俺は おやすみと言った。


俺はウトウトと、眠りにおちていった。



…………できたの?


ん?

柚希、なんか言った?

寝言か?



「好きな人ができたの?」

 


えっ!!


ガバッと起き上がった。


柚希は、向こうを向いたまま、今度ははっきりと言った。


「お風呂入ってきたんだよね? 誰と?」


「だれと?」


えっ??なに??

俺、浮気を疑われてるの?


「そんな訳ないじゃん!!実家の風呂に入ってきただけだよ!!

剣道やって汗かいたから!!」


「そう、剣道ね。 わかった。 おやすみ」



シャットアウトされた……













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