第71話 輪廻応報

 流れが見えれば、恐れるに足りない。

どこから出てくるんだ?って小手も、水の流れをたどれば予想がつく。


俺の面がきまった!!

気持ちいいくらいに、スパーン!!と、入った。


その直後 面をくらったが、これは俺の小手と相打ちだったと思う。


そして、田坂の小手を払って、面を打った。

この面も会心の当たりだった。

これ、審判がいたら、パッと3本揃って旗があがるやつ。


まだ、5分が鳴らなかったから続けたが、一応

俺が2本取って、この勝負は完全に勝ったと思った。


それで、気を抜いたつもりでもなかったが、胴を打ち抜かれた。


くっそーー!!!!

胴、決められると、やられた感あるんだよな~。


そこで、ストップウォッチが鳴った。



面をはずして、手をつき深く礼をした。


「ありがとうございました」


「ありがとうございました。

倉田さんと、お手合わせいただいて、有意義な稽古でした。

やはり、現役でやられてるだけあって、お強いですね。

完敗でした」


「とんでもないです。

田坂さんこそ、スタミナもあるし、昔と変わらずに お強いですね。

実際にあんな流れが見えるなんて思いませんでしたよ。

松井田先輩は、ゆきの流れが見えていたって聞いたんですけど、それ全然理解できてなかったんで。

俺は、高校時代にゆきと何回も稽古しましたけど、なんで見えなかったんですかね」


「う~ん、そうですね~、実際見える人の方が少ないと思いますよ。

柚希さんと松井田くんは相性が良かったんじゃないですか?

あ、恋愛の相性じゃないですよ!」


それ、さっきも聞いたわ。


「そうですか。

話変わりますけど、ご結婚されるお相手の方を、愛していますか?」


俺的には、ちょっと煽ったつもりだったが、田坂は全く表情を変えなかった。


「愛しているかと聞かれれば、もちろん答えは、愛していますと答えますよ。

だけど、それがどのくらいかと聞かれたら、答えられないかもしれません。

そもそも、彼女は、親が持ってきた見合いの相手です。

寺と寺 同士の見合い。

私は彼女を気に入り、彼女も私を気に入ってくれた。

それで、結婚を前提にしたお付き合いをしてきたわけですけど。

気に入り、気に入られ、というのと、求め合い、貪り合うような恋愛とでは、愛情の強さ、大きさは全然違うと思います。

そういう意味では、一般的な恋愛結婚よりも、愛情はあまりないのかもしれません。

結婚して、一緒に暮らして、夫婦として、情を深め合い、愛を育んでいけたらいいなと思っています」


なげーー!!

話なげーーな!!

更に、田坂は話を続けた。


「仏教的な話をさせてもらうと、過去および前世の行為の善悪に応じて、現在の幸・不幸の果報があり、現在の行為に応じて未来の果報が生ずることを、因果応報と言いますが。

その類義語として、来世で次の命へと生まれ変わっても、それまでの行いの善悪に応じて報いを受け続けるという輪廻応報の方が、それに当たるのかと思っています。

現世で、私が、あなたの奥さまにどうこうすることは絶対にないですよ。

それは、来世の為でもあります。

来世では、必ず見つけて、今度こそは添い遂げたいと思っています」


は?

は??


普通に、仏教的な説法だと思って聞いていた。


だけど、そうじゃなかった。


「現世では、俺に譲るけど、来世では、手に入れてみせるからな!!って、宣戦布告ですか?」


「あははははっ!

宣戦布告だなんて、とんでもないですよ。

倉田さんと柚希さんが末永くお幸せでいてほしいとお祈り申し上げていますってことです」


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