第68話 田坂朋徳 3

 「剣道はずっと続けていらっしゃるんですか?」

俺はちょっと話を変えることにした。


「いえ、大学を出てから、剣道は遠ざかっていましたね。

こっちに帰ってきて、子どもたちを指導する人手が足りないと言われて、5、6年前からまた少し始めたくらいです」


「そうなんですね」


「倉田さんは、警察官だとバリバリ現役でやられている感じですか?」


は?

俺、警察官とか一言も言ってねーんだけど!!

柚希から聞いたのか?


「警察官って知ってるんですね?」


「あぁ、ええ、先日 矢沢弘人と会ったので。

あなたの話が話題に出たもので。あははっ」


は?

矢沢弘人、どうせ俺のこといいこと言ってね~だろうな。

じゃ、やっぱり俺から、電話なり、なんなりの

コンタクトがくるだろうことは予想していた訳だ。


「田坂さんとは、高校時代も大学時代も1度も対戦したことはありませんでしたね」


「そうですね。

梅原だと、1番対戦したのは部長の村木くんでしたね。

それから、松井田くん、佐久間くんとはよく対戦しましたが、学年が違うとなかなか対戦する機会はなかったですね」


「そうですね」

わりーな!1個下で!!


「でも、団体戦 梅原で2年で中堅に選ばれているのはすごかったですね。

うちの柳本とやって引き分けでしたもんね!

あれで2年?マジか?って、ざわつきましたよ」


そんな20年前の試合を覚えてるんだ?

すげーな!!


「今日は、お手合わせいただきたいと思いまして、お仕度してきていただきましたが、よろしいでしょうか?」


「はい。こちらも、あなたとお手合わせできるのは、楽しみにしてきましたから」


へぇ~そうなんだ?

社交辞令だろうけどな。

こっちは、本気でいかせてもらうんで、覚悟しろよ!!


審判がいる訳でもないから、スマホのストップウォッチを5分セットして通し稽古にしようと話した。 

はっきりと一本と判る当たりがあっても止めないで、そのまま続けてやる、と。


あんたは年上だし、当時優勝した人かもしれないけど、今は完全に俺の方が上だということを見せつけて、こてんぱんにしてやるからな!!



お互いに、防具をつけて、面をつけ立ち上がった。


蹲踞そんきょして、立ち、対してみると、デカい。

あぁ、初めて松井田先輩と対戦した時を思い出すな。

それよりも、更にデカい。

でも俺は、県警の道場でガタイのいい先輩たちにもまれてるから、怖さは感じない。


デカい声で気合いを出した。


田坂も、気合いを出した。


と、次の瞬間 面を打たれていた。


えっ?

えっーーーー!!!!


完全に一本とられたことが判る当たりだった。


いや、気持ちを切り替えろ!!

取り返すぞ!!


デカい体にしては、動きは俊敏。

でも、スタミナはあるのかな?

5分は、意外と長いもんだ。


俺の小手が当たった。

これは一本取れただろう。


ってことは、実際の試合だったら、次の一本を先に取った方の勝ち。


よし!!

取った!!

そう思って面を打った。


が、同時に胴を打ち抜かれた。


感触としては、相打ち。

でも、これ、審判がいたらどっちを取るだろうか。



ピーーーーーーーー!!!!


と、スマホのストップウォッチが、けたたましく鳴った。




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