第67話 田坂朋徳 2

 「柚希と連絡は、取り合ってはいないということですか?」  


「はい、もちろんですよ。

失礼ながら、柚希さんのご実家にお電話して、今お住まいのご住所を教えていただいて、招待状をお送りしました。

それで、柚希さんからお電話いただいたんですが、あなたと一緒で、うちの寺の方へお電話いただきましたよ」


「そうですか」


それは、本当だろうか?


「うちは、結婚して12年目になりました。

子どもも男の子が2人います。

妻の、…………ゆきの想いを知っていますか?」


「柚希さんの想い、とゆうのは?」


そう言って、じっと俺の目を見た。

俺も、田坂の目をじっと見た。


「う~ん、そうですね。

もう、20年前のことですからね。

中野が中学1年の時に私を好きだったと、あれは~、高2か、高3か、その頃にひろから聞きましたが。

その時、もうすでに過去形のはなしでしたよ。

柚希さんは、その時ひろと安定した付き合いをしていましたし。

私も、柚希さんが初恋の人というのは事実ですけど、柚希さんを好きだったのはほんの短い間だったし。

ってゆうか、若い頃は まぁ気が多いというのか、いろんなタイプの子を好きになったりしましたよ。

なので、私が柚希さんに告白したこともなかったですし、柚希さんに告白されてもいません。

私は、柚希さんのことを、同級生、部活の同期、ひろのカノジョ、ひろの元カノという認識でしかなかったと思います。

今は、友達だと思っています」


ともだち?


「あなたは、そうだったとして、柚希はどうだったと思いますか?

あなたのことをずっと好きで、 忘れられないんじゃないかって気がしてるんですが」


俺がそう言うと、えっ?と、目を見開いた。

そして、思案するように、目をつむった。


「人は人を好きになると、その人のことを深く知りたいと思うあまり、深読みしてしまうもののようです。

想いが強すぎるあまりに疑心暗鬼になる。

中野は、自分の気持ちを、あまり表に出さない。

それは、性格なんだと思いますが。

そもそも欲求がそれほど強くないんだと思います。

無理している訳でもなく、なんてゆうのか、流れに身を任せるって性格なのではないですかね?

自分の気持ちを発することがないから、相手はその気持ちを察するか、読もうとするのでしょう。

柚希さんは、私に対しての気持ちなど何もないと思いますよ。

ただの同級生ってだけじゃないですかね?

あなたは、奥さまを大変愛しておられるってことなんでしょうね。

それをそのまま柚希さんにお伝えになられたらいいと思いますよ」


はぁ。

これが、ありがたい御言葉ってやつか。

さすがに、お坊さんだな。

おもわず納得しそうになるわ。

ってか、だいぶ知ったような口ぶりだな。


「つまり、あなたは、柚希に対して、なんの想いもないし、柚希があなたのことを想ってはいないと、思っておられるということですか?」


「あははっ、そうですね」


俺が、柚希のことを愛しすぎてるあまりに、疑心暗鬼になっている、か……

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