第66話 田坂朋徳

 電話で話した印象は、落ち着いているなと思った。

倉田と名乗ったら、

「あ、はい、中野さんの、ご主人ですね?」

と、言われた。

まるで、俺から電話がくることをわかっていたかのような感じだった。

会う約束をして、短い会話で電話を切った。



 

 その2週間後、体育館の剣道場を3時間予約した。

剣道ができる用意で来てくださいと言っておいた。

俺は、田坂と対戦したことがないから、お手並みを拝見したかった。


俺は正座して待っていた。


道場に道着姿で現れた田坂は、昔のイメージと全然違っていた。

昔より、一回り、いや二回りデカくなっている感じ。

松井田先輩よりも更にガタイがいい。


田坂は、道場に一礼して入ってくると、入り口

付近に正座した。


「こちらへどうぞ。

僕は年下ですので、田坂さん、上座へお座りください」

と、俺が言うと、

「はい、ありがとうございます」

と、俺の上座に座った。


「はじめまして、倉田亨と申します。

厳密には、高校時代にお会いしておりますが、

こうして直接お話させていただくのは初めてですね。

今日は、ご足労いただきまして、ありがとうございます」

そう言って手をつき礼をした。


「こちらこそ、よろしくお願い致します。

田坂朋徳と申します」


低く、優しい声でそう言った。


「単刀直入にお聞きしますが、妻とはどういった関係ですか?」

 

何をどう聞こうかと考えていたが、田坂と対した途端に口をついて出てしまった。


「どういった?

中野とは、あ、失礼、柚希さんとは、中学時代の同級生で、剣道部の同期ですが」


田坂は、表情ひとつ変わらなかった。


「それは、知っています。

俺が言っているのは、そんなことじゃない。

ゆきのことをどう思ってましたか?」


「どう?

親友のカノジョ、です。

あ、いいんですよね?

梅原だったら、矢沢弘人のことはご存知ですよね?

矢沢弘人は親友なので、柚希さんのことは、ひろのカノジョって思ってましたよ」


「矢沢さんともお会いしました。

矢沢さんも、田坂さんのことを親友だとおっしゃってました。

親友の初恋の人を好きになってしまった、と」


さぁ、なんて答えるのかな?


「そうですね。あははっ。

中1の夏に、初恋を意識して、ひろに話しましたね。

でも、私自身は、その冬には違う人とつきあい始めていましたから、中2の時にひろが中野とつきあうことになりましたけど、全然かぶってないんで、奪いあったとかではないんですけどね」


ん?

あれ?

そうなのか?


「中学を卒業してから柚希さんとお会いしたのは、本当に数回ですね。

梅原へ練習試合に行かせてもらったことと、大会で見かけたことと、ひろの家へ行ったらバッタリ会ったことと、成人式に見かけたのと、同級会が2回かな?

それだけだと思います」


「そうなんですか?

あ、ご結婚されるそうで、おめでとうございます」


「はい、ありがとうございます。

あ、奥さまから出席のお返事をいただきましたが、ご主人にご了承いただくのが先だったかと反省しています。

両家とも寺で、檀家さんとか大勢お呼びするので、気が回らず申し訳ありませんでした」


柚希のことを特別扱いしている訳ではない、とゆう感じ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る