第63話 どうしようもなく

 矢沢弘人と話して、わかったことは、田坂が中学1年生の時に初めて恋をした相手が柚希だったこと。

それを知っていながら、矢沢が柚希に手を出したってこと。

そして、その時、柚希は、田坂のことが好きだけど、片思いでつらい、と言ったと。

で、忘れさせてやる!の、クダリ。

ってゆうか、中学生だろ?

他の男のことを忘れさせてやる ってセリフを、中学生が言うんかよ?

矢沢弘人、恐ろしいな!!

でも、その時、柚希と田坂は両思いだったんじゃないのか?


何かしらのボタンのかけ違いがあって、すれ違って、うまくいかなかったってことか……


ってゆうか、そんなことって、多かれ少なかれ

よくあることだろ?

問題なのは、そんな中学生の頃の想いを、いつまでもいつまでも 昇華出来てないってこと。


なんでだよ?


矢沢弘人が、忘れさせてやる!!って言って、で、実際あんなにラブラブだったじゃないか?

なのに、田坂のことが好きだったのか?

忘れられなかったのか?

須藤桂吾とつきあっても?

長井康之とつきあっても?

岩田忠志とつきあっても?

俺とつきあっても?

結婚しても?

子どもたちがいても?

それでも、田坂のことが好きなのか?

今でも忘れられないのか?



柚希に、直接、田坂のことを聞いてみようか?


ただの中学の同級生

ただの中学の部活の同期


そう言うだろう。


でも、それを聞くことで、俺が何かしら気づいているんだって、けん制にはなるんじゃないのか?


けん制 か……


けん制……


柚希は、別に浮気をしているわけじゃない。

浮気をしようとしているわけでもない。

俺や子どもたちを ないがしろにしているわけでもない。

子育てにしろ、家事にしろ、手ぬきはまったくない。

美味しい料理、きれいに片付いている部屋、洗濯された服はTシャツでさえシワもない。

子どもと遊び、勉強を教え、幼稚園や習い事の送り迎えをする。

子どもに掛かりっきりってこともなく、夫婦の時間も大切にしてくれる。

俺に対しても、お疲れさまとか、ありがとうとか、労ったり、感謝の言葉をかけてくれる。


柚希のどこに落ち度があるってゆうんだよ。

なにも、ない。

ただ、俺が気になってしまうだけ。

柚希のことが好き過ぎる。

心の中すべてを、俺だけを想っていてほしいと思ってしまうのは、わがままなんだろう。

それも、わかってる。

わかってるんだけど……

どうしようもなく、どうしようもなく、好きなんだ。

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