第64話 招待状

 柚希に、直接、田坂のことを聞いてみようか。


そんな風に考えながら、数ヶ月が経っていた。



「とおる、これ」

と、柚希が夜ご飯のあとに封筒を差し出した。


「何?結婚式の招待状?誰から?」


そう言いながら封筒から出して見た。

大澤美咲?


「大澤美咲さんって誰だっけ?」


と、柚希の顔を見た。


「ううん、じゃなくて、田坂からきたんだ、それ」


えっ?

は??


慌てて招待状の名前を改めて確認した。


田坂朋徳


「田坂って、剣道部の?」


「そう」


マジでびっくりして、心拍数バク上がりした。


「なんで ゆきが呼ばれんの?」


「私もちょっとびっくりして、今日電話してみたよ」


電話?

つながってんだ?

ってか、ここの住所に封筒届いてんじゃん!!

は?


「なんかね、何年か前の同級会の時に、私に言われたことで、結婚を決めることができたから、恩人だって言われたよ」


恩人?


「なに言ったの?」


「それがさ、あんまり、ってゆうか全然憶えてなくて。

田坂が言うには、結婚相手はきっとみつかるから、諦めるなって言ったらしいんだよね」


「それだけ?」


「うん。きっと、酔っぱらって、ペラペラなんか言ったんだと思うんだけどね。

私なんか出席していいの?って聞いたら、

是非出てくれよ!って言われちゃってさ。

ほら、寺のあと取り息子だから、大勢呼ぶみたいなんだよ」


「ふーーーーん。そっか」


もう1度、招待状に目を落とした。

ふーーーーん…………

いろいろと気にいらない。

結婚式の日時は、4ヶ月後の10月か。


「で、ゆきは出たいわけだ?」


今の言い方、イヤな聞き方だったかな?


「ん?どうしようかって思ってるよ」


ちょっと首を傾げて、俺を見た。


行きたいのか?

行きたくないのか?


「ゆきの好きにすればいいよ。

出る気がなかったら、もう電話で断ってるはずだから、俺に聞くってことは、俺の了承をえたいわけだろ?

いいよ。

行ってきなよ。

同級生の結婚式も もうほとんど終わっちゃってるから、結婚式って、久しぶりじゃん」


「うん、そうなの!

久々に結婚式に呼ばれたなぁって感じ」


「いいじゃん。出席しといでよ」


そう言って、封筒に入れて招待状を柚希に返した。


「ありがと。とおる」


にこっと笑った。

行きたいんだな。



なんてゆうか……

招待状ってより、挑戦状のような気がした。

俺に対する挑戦状。

そして、柚希に対しても。

結婚式に出席して、見送る覚悟があるのか?と。

 

柚希が、出席したいと思っているのなら、それを俺が止めることはできない。

 

田坂の結婚式を見届けることで、心境は変わるだろうか?

愛と青春の旅立ちの逆バージョンみたいに、田坂の手を取って、結婚式場から逃げ出すなんてことは、さすがにしないだろう。

田坂が結婚するのを、直接 目の当たりにした方がいいんじゃないかって、そんな気がした。


田坂朋徳……


今まで独身だったのか。

ってゆうか、俺は田坂のことを何も知らない。

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