第61話 田坂おぼえてる?

 松井田先輩と、佐知香にお礼を言って、おいとました。

もう、ごぜんさまになってしまった。

柚希はまだ起きているだろうか。

寝ていてくれたらいいのにな。

なんとなく顔を合わせずらいような気がした。

そんな風に思ったのは初めてかもしれない。



田坂……、田坂……、田坂……

柚希の口から、田坂の名前を聞いたことがあっただろうか。


でも、うっすらと記憶の片隅に……


あっ!!

言ってたじゃん!!!!

あれは、いつだ?

なんの時だったか?

たしか、電話で話していて……



とおる、田坂おぼえてる?

佐古の大将だった、田坂



はっきりと思い出した。

あれは、俺の告白で、つきあうことになって、

長野と神奈川の遠距離での付き合い始めの頃だった。

つきあうことになったけど、遠距離で全然 会えてなかった。

柚希が、中学の同級会に行ってくると言った。

中学の同級会ってことは、矢沢弘人と再会するってことか。

めちゃめちゃイヤだった。

久しぶりに再会したら、何かが始まってしまうんじゃないか?

付き合い始めたばかりの俺よりも、元カレとの

再会って方が、正直勝ってる気がする。

俺は、矢沢弘人のことだけを、気にしていた。

同級会には行ってほしくなかったけど、心配だから行くなってゆうのは、束縛強い男とか、ちっちぇー男とか思われそうで、楽しんできなよ!と、電話で話した。


同級会当日。

俺は仕事から帰ってきても、落ち着かなかった。

気を紛らわす為に、腕立て、腹筋、背筋、スクワットをひたすら やっていた。


予想よりずっと早く、9時半に柚希から電話がかかってきた。

同級会から帰ってきたよ、と。

2次会には行かずに、友達と一緒に友達のダンナさんに家まで送ってもらって帰って来たのだと。


えいちゃんとは話さなかったよ。

安心して。


そう言われて、ほっとした。


そして、

「田坂、覚えてる?佐古の大将だった、田坂」

と、柚希が言った。


「優勝した人?」


「あっ!そうそう!優勝したね~」


「えっ?同級生だったの?」


「そう!」


「中学の剣道部で一緒だったって、聞いた覚えはあるけど、クラスも一緒だったんだ!!

練習試合で来た時に、やけに仲良さそうに喋ってんなーって、カチンときたんだよな!!」


「あはははは!仲良さそう?

そんなことないけどさ~。

今日、田坂に、とおると付き合い始めたって話ししたの!

田坂も、とおるのこと覚えてたよ!

2年でレギュラーだった、中堅のやつ?って!!あはははは!

先輩に告白するって、なかなか出来ることじゃない!って。

それなりの覚悟で来てるはずだから、本気だろ!!ってさ!!

田坂、寺の息子だからさー、結構いいこと言ってくれるんだよね~。

ありがたいお言葉ってゆうの!!あははは!!」




なに?そのテンション!!

めちゃめちゃ酔っぱらってんだけど。

あはは、じゃねーよ!

その人に言われなくても、俺の本気をわかってくれよ。


って、思った。


あの時、すでに、俺とつきあうことを、田坂に報告している。

報告?

相談?

ありがたい御言葉……

田坂が、俺とつきあうことに賛成したから、俺との付き合いを続けようって、そう決めたのか?



柚希の口から、田坂の名前が出たのは……

たぶん、その時だけだな。

あの時は、酒が入っていて、つい話してしまったのかも。

普段は、意識的に、名前を出さないようにしているのかもしれないな。





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