第60話 佐知香が見た光景

 「あの個人戦の試合、わたしも第1試合だった。

第2コートで。

観客席でタッツンが応援してくれると思ってたから、姿を探してキョロキョロしてたよ。

あっ!いた!!って見つけたら、倉田の隣りに座ってて、第4コート近くで。

なんで、そっちだよ!!

なんで、彼女の応援じゃなくて、中野先輩の応援してんだよ?

それは、倉田1人で十分だろ!!って、だいぶ

カチンときたよ」


「あははっ!それな! ずっと、言われ続けてるけどな。

佐知香は、負け確だったから、まぁ、今回見なくてもいいかな~って。あははっ!!」


「なにが、負け確 だよ!!ひどいよね~!!

そんなだよ!!そんな扱いだったよ。

わたしより、中野先輩の方が好きなんだ!!って、わたし、中野先輩に嫉妬してたよ」


えっ?嫉妬してた?


「でも、まっ、確かに、負け確だったんだと思うよ。

面2本とられて、秒殺だったからね。

相手、別に強い人でもなかったしね。

負けて、先生のところへ行ったら、もうジャージに着替えちゃっていいって言われて、更衣室へ行ったんだ。

で、着替えて更衣室から出てきたら、タッツンが中野先輩を抱きしめて号泣してて」


えっ?

あれを見られてたのか?


「それを、倉田が見ててさ~、倉田だって あれムカついてたでしょ?

ガッツリ抱きついてんだよ~?

抱きついて号泣してんの!

はぁ?って思ったよね~?」


と、佐知香は俺に同意を求めた。


「いや、俺は、あの時、松井田先輩にヤキモチは妬かなかったよ。

松井田先輩が泣いてるところ初めて見たし、松井田先輩が悔しかったのは、すっごいわかったし……

悔しかったのは、俺もだったけど。

なんてゆうのか、あの時のゆきは、中野先輩は、折れそうだったから、支えがなければ立っていられないんじゃないか?って思ったから。

松井田先輩が抱きしめて、泣いてくれて、気持ちが和らいだんじゃないかって、そう思ったよ」


「ふ~ん、そっか。

でさ、中野先輩とタッツン、を、見てる倉田

の、後ろに立って見てたの。

佐古高校ってジャージを着た人」


「えっ?」


「佐古の部長さん、あの、田坂って人」


えっ…………


「めっちゃ、めっちゃ!!悲しそうな顔してた。

泣きそうな顔だったんだよ。

悲しそうに、見つめてた」


悲しそうに……


「中野先輩に勝った、自分の学校の人のところへ行くんじゃなくて、中野先輩のところへ直行したって感じ。

中野先輩が、じゃなくて、この人が?この人も?かな。

なんかね、タッツンがいなかったら、あの人が、中野先輩のことを抱きしめてたんじゃないのかな?って思ったよ」


田坂が柚希を抱きしめに行った……

折れてしまいそうな柚希のことを、抱きしめてやりたいと思ったのか?


それって、つまり……

両思いってことか?


なんの繋がりもなくても、繋がっているってゆうのは、きずなってやつなのか?



「あの時さ、中野、すっごく小さい声で、

“”勝ちたかったな……いいところ見せられなかった……“” 

って、言ったんだよ。

それって、俺に言ったんだと思ってたけど……

たぶん、それはひとりごとで、いいところを見せたかった相手は、俺じゃなかったんだって思うよ」


柚希が “”いいところを見せたかった“” 相手


田坂だったのか……


田坂に、いいところを見せたい為に、一生懸命

頑張って剣道をやっていたってゆうのか?




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