第58話 佐知香 2

 「ってか、なんで、あんた1人で飲んでんの?

わたしにも、飲ませてよ!!」

佐知香はそう言って、松井田先輩のグラスをとりあげた。


「わ!!うっま!!これ、うっま!!」

 

大袈裟なくらいに、佐知香はそう言って笑った。

明るいな。

高校の頃も、こんな感じだったな。

俺は、うるさくて、ウザいな~って思っていた。

でも、思ったことをポンポン言うのは、裏表がないってことかな。

それは、それで、いいことだなと思う。


「ってゆうかさ、倉田~、なにが気にいらないの?

中野先輩が、どっかの男と浮気してんじゃないか?って、そう思って調べてるってこと?」


「いや、浮気はしてないと思うよ」


「浮気は、って、今そう言ったけど、あんたが調べてるのは中野先輩の過去のことだよねぇ?

過去がわかったところで、それを変えることも出来ないんだし、意味なくね?

同じ女として言わせてもらうけど、くだらないよ、あんたのしてることは!!」


「佐知香!言い方きついぞ!

倉田は、倉田なりに、悩んでるんだよ。

中野とのかかわり合い方に」


「いえ、佐知香が言うように、くだらないことをしてるんだと思います。

だけど……どうしても、気になっちゃうんだ。

俺、マジで、どうしようもなく、柚希のこと好きだから……」


佐知香は、はいはい、わかったわかったと言って、じゃー飲め飲めと俺に焼酎をついでくれた。



柚希は、自分に自信がなくて、自己肯定感が低い。

だから、自分のことを好きになってくれた人に対しては、誠心誠意 尽くす。

嫌われたくないって気持ちが強いから、自分の気持ちを押し殺す。

自分がその相手を好きかどうかは二の次にする。

だから、柚希が付き合ってきた男には共通するタイプのようなものはない。

極端な話、誰でもいいんだろう。

自分を好きになってくれたのであれば。

自分を好きでいてくれる限り、求められれば受け入れる。

俺のことを好きだと言うが、俺が柚希を好きだと言っているから、自分も好きだと言っているだけだろう。

そんなふうに考えてしまう自分がイヤだ。

俺の想いは、きっとどこかおかしいんだろう。

なにか、悪い方へ向かってしまいそうで、怖い。



「タッツン、どうする?」

そう言って、佐知香は松井田先輩を見上げた。


「全部話そう。ただ、佐知香が見たままを。

実際 それの正解は、わからない。

それは、俺らが判断することじゃない」


松井田先輩がそう言うと、佐知香は頷いて、俺の方を向いた。


「じゃ、まだ続きあるんだけどさ。

中野先輩の最後の大会の、試合のあとの話なんだけど」


佐知香は、グラスを置いて、俺を見た。

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