第57話 似ている

 「俺もさ、佐知香からその話聞いたら、なんか、いろいろと思い出してきたんだけどな」


今まで黙って焼酎を飲んでいた松井田先輩が口を開いた。


「あの時の、練習試合の時の中野の勝ち筋 覚えてるか?」


えっ?

勝ち筋……


「たしか……はじまって、すぐに、飛びこみ胴で

一本取って、それを警戒した相手の がら空きの面を取って、秒殺だったと思います」


「えーーーーっ!!怖っ!!

そんなん覚えてるのーーーー?」


「まぁ、そりゃな、結構な衝撃だったからな。

なぁ?」

と、松井田先輩は笑った。


俺の記憶通りと言うことか。

あのタイミングで胴を打つのは、だいぶ勇気がいる打ちだった。


「それ、前日の男子の練習試合の時の、田坂の流れと似ててさ!」


田坂の流れ?


「大将戦、田坂 対 村木だったけど、お互いに決め手がなかった。

でも、村木が引き面で先取して、よし!!って

思った瞬間、田坂が飛びこみ胴をした。

で、続けざまに田坂の面が入って村木は負けた」


あぁ、確かに、そんな流れだったな。


「強え~な~!!って思ったよ 田坂。

でさ、練習試合のあとかな~、村木がさ、俺に

試合稽古の相手をしてくれって言ってきたんだよ。

‘’対 田坂対策‘’ だって」


‘’対 田坂対策‘’ ?


「わりと似てるってゆうんだ」


「似てる?」


「パワー系の力強い剣道、の割りに、小ワザもきかせてきたり、スピードもある。

で、見えない位置から小手がくるって。

その小手をさばくのに気を取られ過ぎて、面か胴をくらう、ってさ」


「あ、今、言ってたのって、松井田先輩のことだと思って聞いてましたけど、田坂のことなんですか?」


「そう。村木は、大将ってポジションだから、田坂と対戦することが多くて、やってみると、俺に似てるって言うんだ。

俺は、個人戦の準決勝であたったのが1回だけだったな。

負けたし、すげーやりづらかったんだけど、太刀筋が似てるってことだったのかな」


「えっ?じゃー?」


「そう!そうなんだよ!!

中野が俺を稽古の相手に選んでいた理由。

俺が、田坂の剣道に似ていたからってことかな」


なんだ?それ?

ってか、頭が回んね~!!

いつから?

中学の時から、好きだったのか?

って、待って!

中学の時から、ずっと、矢沢弘人と付き合ってたんだよな?

田坂じゃないだろ?



ゆきの心の奥にいたのは、ずっと……

いつだって、俺じゃなかった……


俺は、剣道をやってる奴には勝てないと思っていたよ……



矢沢弘人は、そう言った。

これを、田坂だとして考えると、ぴったりと はまってしまう。

柚希がずっとずっと心の奥で好きなのは、田坂なのか?


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