第55話 松井田家へ

 目黒の松井田先輩のマンションへお邪魔した。

薩摩の芋焼酎と、チキンとプリンを手みやげに買って行った。

マンションの入り口で部屋番号を鳴らし、オートロックを開けてもらいエレベーターで3階へあがった。

エレベーターから出たタイミングで、突き当たりのドアが開き、女の子が2人、

ワーーーー!!

ギャーーーー!!

と、絶叫しながらこちらに走ってきた。

そのすぐ後ろで、コラーー!!って叫んでる。


佐知香?


「おっ!!倉田!!おひさっ!!」


女の子2人は、俺に抱きつき、1人が手を引いてくれて、1人は腰の辺りを後ろから押してくれた。

いや、初対面のおじさんに対する出迎えのテンションじゃねーんだけど!

佐知香のDNA強すぎだろ!!


「佐知香、久しぶり。

松井田先輩には、本当にお世話になってて、

ご迷惑もおかけしちゃってるんだけど。

これ、ほんの手みやげ」

そう言って手渡した。

佐知香に会うのは、高校の卒業式以来だ。


「迷惑なんてこと、全然ないっしょ!!

いつまでも、センパイ センパイ言ってもらえて、タッツン喜んでるよ~!!

ってか、倉田 全然変わらないね~!!」


まぁ、入って入ってと言われ玄関に入ると、部屋から松井田先輩が出てきてくれた。


「忙しいところ、うちまで 悪いな」


「いえ、逆にお休みのところを、すみません。

ご自宅まで押しかけてしまって」


この時間に来いと指定されたから来たけど、夕方の7時。

夕飯どきじゃないのかな~?って思っていたけど、案の定、テーブルには晩ごはんが並べられて、さぁ食べようと言われた。


「お祝いでもないけど、振る舞う料理が思い浮かばなかった」

って、佐知香は明るく笑う。


ちらし寿司と、シチューと、肉野菜炒めと、サラダ。

なんだか、和洋折衷みたいな献立だったけど、色とりどりカラフルな食卓だった。

そして、意外に美味かった。


「佐知香、料理できんだな?」


「は?できんだろ?普通に。

何年 主婦やってると思ってんだよ?

そういえば、結婚したの同じ頃だったよね~?

じゃ、10周年記念やった?」


「あぁ、大したことしてないけど、フレンチの店へ家族で食事に行ったよ」


「ほら~~!!倉田だって、そのくらい気を遣うんだよ!!

オクサンに!!!!」


うちは、なにもしてない、どこも連れてってくれない、何もプレゼントしてくれない、と、ひと通りの文句を松井田先輩にぶつけた。


松井田先輩は、あははっと苦笑いしていた。


松井田先輩は、佐知香のどこに惚れて、結婚したのだろう。

まぁ、それを今 聞くのもなんだから聞かないけど。


ってか、俺は、松井田家のお食事会にお招き頂いて来た訳じゃない。

早く、佐知香の心当たりってゆうのを聞かせてくれよ!!

って思いながら、松井田家の家族団らんにつきあった。



9時半過ぎて、子どもたちが寝た。


俺が持ってきた芋焼酎を早速開けていいか?

と、松井田先輩が言い、ロックで飲み始めた。


「じゃ、佐知香 倉田に話してやれよ」


松井田先輩にそう促されて、佐知香が口を開いた。


「うちら、1年の秋くらいにさ、佐古高校が練習試合に梅原へ来たじゃん!」


佐古高校?



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