第54話 佐知香

 松井田先輩と飲みに行ってから半年くらい経った頃、先輩から電話が掛かってきた。


「あのさ、まずは ごめん。

この間の話をさ、佐知香に話しちゃったんだ」


松井田先輩は、申し訳なさそうな声で言った。


「いえ、全然、大丈夫です。

この間は、話を聞いてもらった上に、おごっていただいちゃって、すみませんでした。

遅くなっちゃったし、佐知香に怒られちゃったかな~とか思ってました」


あぁ、まぁなと松井田先輩は笑った。

高校の頃から、佐知香は元気で明るくて、積極的な子だった。

高2の時、佐知香のアタックで、松井田先輩と付き合うことになった。

それから、ずっと付き合っていたのかは知らなかったけど、結婚したのを聞いたのも、俺の結婚と同じ頃だったと思う。

松井田先輩、今は、だいぶ尻に敷かれているのかなって感じた。


「倉田と飲んで帰ってさ、俺、相談されたことは言わんでいたんだよ。

それがさ~、ついこの前、なんかの話から、矢沢の話になってさ。

で、ごめん!!

倉田から聞いた話、話しちゃった」


俺から聞いた話と言うのは、

‘’ゆきの心の奥にいたのは、俺じゃなかった‘’ と、

‘’剣道をやってる奴には勝てないと思っていた‘’

の、話だそうだ。


「いえ、全然いいですよ~!そんなこと」


「それでさ、佐知香、心当たりがあるって言い出してさ……」


「心当たり?」


「あぁ、中野の想い人ってゆうのか?

矢沢が勝てないって思ってた相手ってゆうのか」


えっ?

想い人?


「佐知香、倉田と話したがってるからさ、都合いい日に、家へ来ないか?」


「行きます!!」

と、答えた。

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