第49話 本音と建前

 「ゆきの好きな人は、本当は誰なの?」


こんなことを聞いたって、

なに言ってるの?とおるに決まってるでしょ?

結婚したんだから。

って、言われることはわかっている。

タテマエは、そうだろう。

そうじゃなくて、ホンネが知りたいんだ。


‘’ゆきのことを失いたくなかったら、これ以上詮索するな‘’

か……


俺は柚希のことが好き過ぎる。

すべてを手に入れたいと思ってしまう。

すべてを手に入れられないのなら、この手で壊してしまいたいとさえ思ってしまう。

自分でも自覚できるくらい、俺はヤバい奴だ。


矢沢弘人が言っていた、

‘’剣道をしてる奴には勝てないと思っていた‘’

が、気になる。



俺は、松井田先輩に連絡を取った。


松井田先輩とは、今でも剣道の大会とかで顔を合わせることがある。

警備保障会社に就職して、今は東京にいる。

その会社の剣道クラブで剣道を続けている。

手合わせしてもらうこともあるが、パワー系の剣道に更に磨きがかかっている感じで、相変わらず強い人だし、尊敬できる先輩だ。



数日後


武蔵小山駅で待ち合わせた。

松井田先輩の行きつけのこじんまりとした居酒屋に入った。


「倉田から飲みの誘いなんて初めてだよな~。

佐知香も倉田に会いたがってたけどな~。

とりあえず、今日は男同士の話だって、置いてきたわ」


佐知香は、俺の同期。

剣道部の1個上の先輩と結婚したって共通点があるけど、俺は当時もそんなに親しくはなかった。


「佐知香、さん、元気ですか?」


「あぁ、佐知香でいいよ。

元気 元気!!

男2人でキャバクラとか行こうとしてんじゃね~だろ~な~!!って、騒いでたわ!

あははっ!!」


えっ?そうゆう感じ?


「中野は?元気かよ?」


「はい。元気です。

でも、松井田先輩と会うことは話してないです」


「まぁ、そんな気はしたけどな。

で?俺に相談って何?

中野と うまくいってないのか?」


「いえ、相談ってゆうか、相談じゃないんです。

何を相談していいのかもわからなくて。

ただ、松井田先輩と剣道の話をしたくて」


「剣道の話?

あははっ!!酒呑みながら、剣道談議をするのかよ?

まぁ、いいけどさ」


松井田先輩は、あれもおすすめ、これもおすすめ、と、いろいろと注文してくれた。


じゃ、とりま、乾杯!と、大ジョッキで乾杯した。


「俺と、って言うんだから、高校時代の部活の話をしたいってことだよな?」


すげー、察しがいいな!!


「はい。ゆきのことを聞きたいんですけど」


「中野のこと?」


「俺が知らない、先輩たちが1年生だった時の話が聞きたくて」



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