第47話 矢沢弘人、と 4

 「ってゆうか、あいつがRealのkeigoとはな~!

テレビで顔観ても全然気がつかなかったな~」

と、スマホの画面をスクロールしている。


「会ったことあるんですね?」


「あ、うん。

俺が大学3年の夏かな。

長野に帰った時に、花屋へ行ったよ。

短大を卒業して、もうそこに柚希がいないって

わかってて行った。

どこに就職したのか知りたくてね。

花屋の店長さんに聞いてたんだ。

そしたらさ、あいつが後ろからデカい声でさ。

そいつ元カレ!教えんなよ!店長!!とか言ってきてさ~。

振り返ってみたら、金髪のチンピラみたいな奴で、おまえ誰だよ?って感じだったし、なんで俺のこと知ってんだよ?って、びっくりしてさ~!

で、めっちゃイヤミったらしいこと言われて、

煽られて、頭にきて一発殴ってやろうと思ったら、こぶし掴まれて、めっちゃデカい声で怒鳴られて、しっぽ巻いて帰って来たってゆうね、 

嫌な思い出なんだけど……」


「殴りかかったんですか?

でもあの人、ボクシングやってた人だから、まぁ当たらないでしょうね」


「そうなんだ!!へぇ~!!

ってか今、段々と思い出してきたけど、マジで すげームカつくこといっぱい言われたんだよな~。

でも、ゆきとつきあってたってのは、本当だったんだ?

デタラメ言ってると思ってたけどな。

ゆきが、あんなチャラついた奴とつきあうわけねーじゃん!って思ってた」


「あの人、見た目はね チャラいですけど、根は真面目で、かっこいい人ですよ。

ってか、あなたもお変わりなくて、相変わらずのイケメンですね」


「あはは!そうかな?

だいぶ歳とったなぁって感じるけどね」



矢沢弘人は、終始フレンドリーだった。

肉を食べ、ビールを5、6杯飲んだ。


「倉田君さ~、高校の頃から、ゆきのこと好きだったんだよね?」

と、聞かれた。


「えっ?そうですけど。なんで?」 


「卒業式の帰りに、ゆきに花束渡してたのキミだよね?」


「えっ?そうですけど」


あの時のこと覚えてたのか?


「あ、これ、ゆきに気があるんだな~って思って、ゆき!!って呼んでさ~、思わずジャマしちゃった!

あははっ!!

で、キミ、めっちゃ にらんでたじゃん、俺のこと!!」


めっちゃ にらんでた、か?

にらんでたのかもな。

この人に勝てるわけないと思ってた。

圧倒的な敗北感しかなかった。


「ゆきのこと、好きでしたか?」


「大好きだった!!」


間髪入れずに、そう答えた。


「好きだったから、ゆきに嫌われないようにって、必死だった。

俺、性格悪いからさ、それ、バレないように、ゆきの前じゃ猫かぶって、必死だったよ~」


えっ?…………

意外!!


「本当の俺を知ったら、フラレるって思ってたから。

フラレる前にフっちゃうってゆうね、バカやっちゃったけどね。

まぁ、どっちにしろ、俺じゃなかったってことだろうな~」


なんてゆうのか、本音を聞いた気がした。


最後は、俺に、ガンバレよ~ガンバレよ~を繰り返し言い、ゆきを幸せにしてくれよ~って、支払いを全部してくれて、おごってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る