第46話 矢沢弘人、と 3

 「ゆきは、須藤桂吾に愛されていた。

だけど、ゆきの方は、それを受けとめず、気付かなかった。

なぜだと思いますか?

それは、あなたのことを忘れられなかったから

じゃないかと思います」


「えっ?」


と、言ったきり、矢沢弘人は黙り込んだ。


「……俺のことを忘れられなかった?……」


そう言って下を向いた。


「ゆきのことを傷つけたのは、俺だ。

確かに傷つけたよ……

一方的に終わりにしたからね。

だけど……

ゆきの心の奥にいたのは、ずっと……

いつだって、俺じゃなかった……」


ゆきの心の奥にいたのは、俺じゃなかった??

は?

おまえだろうが?


「どうゆう意味ですか?」


「俺は、剣道をやってる奴には勝てないと思っていたよ……」


剣道?

なんで、今、剣道が出てくんだよ?


「剣道って、どうゆう意味ですか?」


「キミも剣道部だろ?

そのキミでもダメなら、きっとダメだろ」


全然意味わかんねー。

キミもダメなら、きっとダメ

って、どうゆう意味だよ!!


「今、ゆきとの関係は、良好なんだろ?」


「えっ?あ、はい。 

ケンカすることもなく、夫婦円満です」


「じゃぁさ~!!これ以上詮索するのはやめとけよ!

ゆきを失いたくはないだろ?」


ゆきを失いたくはないだろ?

だと?


「どうゆう意味ですか?」


「そのままの意味だよ。

ゆきは、鏡みたいなもんだ。

愛して、愛情を注げば、それ以上に愛情を返してくれる。

心の奥底を覗こうとしたら、避けて逃げられるかもしれない。

これは、ダメだった男からの忠告。

今が幸せなら、それで良しとしとけよ」


な!!

って、肩をぽんぽん叩かれた。


柚希を失いたくない。

そんなこと決まってるだろ!!

失いたくなかったら、これ以上詮索するな!!


そうなのか……

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