第45話 矢沢弘人、と 2

 「飲みにって言われましたけど、腹減ってんで、飯食うって感じでいいですか?」

と、俺は聞いた。


「あぁ、いいよ。俺も腹減ってるよ。

何食いたい?俺、焼き肉食いたいけど」


焼き肉?

じゃ、何食いたい?なんて聞くなよ!


「じゃ、焼き肉にしましょう。

最初に言っときますけど、金持ってないんで、おごりませんよ!!」


「あははっ!!俺も、おごらないよ。

割り勘ね!!」


笑った顔もイケメンで、ムカつく。


桜木町駅近くの焼き肉屋に入った。



まずは、生ビールを頼んだ。


「ここから、そっちがあなたで、こっちが俺。

自分の分は、自分で焼いてくださいね」


「あははっ!なに?

ケチなの?神経質なの?こまかいね~」


「その両方ですね」


「ふ~ん。ま、警察官のゆう通りにしますかぁ」


楽しそうに笑って、肉を焼き始めた。


「ね~、ゆき、元気?」


「はい、元気です」


「子ども いるんだっけ?」


「男の子が、2人います」


「へぇ~、なんか、女の子を育ててるイメージだったけど」


女の子を育ててるイメージって、どんなだよ?


「いくつ?」


「7才と2才です」


「へぇ~、大変なところかな?

名前なんてゆうの?」


「それ、別に言う必要もないでしょ?」


「ないけどさ、まっ、いいや。

じゃ、本題に入るか。

去年、なんだったの? 

ゆきと、夫婦げんかでもしてたの?」


「はっ?なにも、ケンカなんてしてませんけど」


「じゃ、なんで、俺に、あんなに会いたがってたの?」


なんで?……か……

正直に言うか。


「あぁ…………

須藤桂吾ってわかりますか?」

 

「ん?すどうけいご?

なんか、聞いたことある名前のような気もするけど、誰?」


「Realのkeigoって言えばわかりますか?」


「Realのkeigo? あの、ロックバンドの?」


「はい。

あなたと別れたあとに、ゆきが付き合っていた相手です」


「は?Realのkeigoとゆきが?」


矢沢弘人は、ポカンとした顔をして、俺を見つめていた。


そしてハッとしたように、スマホを手に取ると、何か打っている。


「Realのkeigo……あの時の金髪野郎が……」

と、静かに言った。


「あなたと別れた後、駅ビルの花屋でバイトを始めたゆきは、向かいの服屋のフリーターの須藤桂吾と出会い、付き合うようになった。

傷心だったゆきは、須藤桂吾に癒やされたようです。

でも、短大を卒業してバイトを辞めて、須藤桂吾とは終わった。

須藤桂吾は、ゆきとの別れを吹っ切る為に、フランスとイギリスへ音楽の勉強に行っています。

帰ってきて、ルピアーノのバンドコンテストに出て、優勝して、デビューしました」


「じゃ、余韻の人?…………って、ゆきのことなの?」


「そうです。須藤桂吾は、ゆきのことを忘れられないという曲をたくさん作っています」


「マジか……」


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