第44話 矢沢弘人、と  1

 夏

 

俺のスマホに電話が掛かってきた。

スマホの画面に表示された名前は、


‘’矢沢弘人‘’


「はい、倉田です」


まだ、署内で事務作業中だったから、立ち上がり廊下を歩きながら電話に出た。


「どうも、矢沢ですけど」


「はい、なんですか?」


「なんですか?って、冷たいじゃん!!

1年半前は、そっちがしつこく電話してきたくせに」


「そうですね。

でも、あなたは、そんな20年前の女のことなんて、覚えてもいないっておっしゃったので、もう僕はお話することはなくなったんで」


「ま、あの時はね、ちょっと、イラついてたからね。

今、横浜にいるんだけど、これから飲まない?」


は?


「俺と? サシで?」


「ゆきも 一緒でもいいけど、まぁ、ゆきの話をするなら、サシの方がいいっしょ?」


なんなんだ?

どうゆうつもりだよ?


「わかりました。まだ、ちょっと仕事中なんで

1時間後くらいになりますけど、いいですか?」


「あっ、いいよ。俺も今 新横浜でちょいあるから。

どこで待ち合わせる?」


「じゃ、1時間後くらいに、桜木町駅でいいですか?」 


「了解、じゃぁね」


今日は、8時あがりで普通に帰るつもりでいた。

同僚と飲みに行くことになっちゃったから、ご飯はいらない、先に寝ちゃっていいからね、と、

柚希に電話した。


矢沢弘人と会うのは、20年ぶりになるのか。

柚希の卒業式の日に、手を繋いで歩いてく後ろ姿を見たのが最後だな。

あの当時、アイドル並みのイケメンだった矢沢弘人も今、36才。

どんな感じだろうか……

面影まったくね~な~って感じになってたら、笑えんだけど。

って、そっちを期待して桜木町駅に行ったが、俺の期待は大きく崩された。


マジか!!

つまんね~な~。


矢沢弘人は、あの頃となんも変わらずに、若々しく相変わらずのイケメンだった。

アイドルで言えば、このくらいの歳でもバリバリのアイドルか。


「お待たせしました。倉田です」

と、矢沢弘人に声を掛けた。


「あ!!どうも!!おつかれ~」

と、にこやかだった。


考えてみたら、この人と、直接 話をするのは、初めてだな。

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