第41話 ありがとう

 「桂吾がRealでデビューしてることを知ったのは、結婚して、3年くらいの時だったと思うけど。

峻がまだ小さかった時で。

YOINを初めて聴いた時は、私のこと?って思ったけど、それでも、私のことをそんな風に想っててくれたなんて、やっぱり信じられなかった。

曲を作るのって、1を10くらいに盛って書くのかな?って思ったくらい」


柚希は、自己肯定感がめちゃめちゃ低い。

‘’わたしなんて‘’

ってゆうのが口ぐせみたいな人。

俺とつきあい始めた時も、つきあってみてやっぱ違うな~って思ったら、そう言っていいからね、とか言われた。

いつでもフッてくれていいから、みたいに。

俺は、好きだ好きだ好きだ好きだ!!を言い続けた。

もしかしたら、須藤桂吾もそう言っていたかもしれないけど、柚希はそれを真に受けなかったのかもしれない。

俺が、柚希と結婚することが出来たのは、親に紹介したり、柚希の親に挨拶に行ったりして、外堀を埋める作業をして、だいぶ強引に、結婚することを既成事実にしたから。

須藤桂吾がもしも、有名なバイオリニストだっていう お母さんに柚希を紹介していたら……状況は違っていただろう。


「さっき、ゆきにとって須藤桂吾って何?って聞かれたけど、私にとって桂吾は、恩人って感じかな……」


恩人……


「1ファンとして、応援していきたいな~って思ってるよ!Realをね」


Realを、か……


「須藤桂吾が弾きがたりしたって曲、ゆきに対してのラブレターでしょ?」


「あははっ!

ラブレターね!!今まで1回も貰ったことなかったけど、歌でってね!!

なかなか ないよね!!

ってか、桂吾ピアノもあんな上手に弾けるんだ!!って、びっくりしたよ。

あははっ。

桂吾の想いは、受け取ったよ。

心からありがとう、って言ってくれた。

私も、同じ気持ちだよ。

それは、たぶん桂吾にも伝わったって思う」


そうか。

そうなんだな。

そこにウソはなさそうだ。


「ゆき、抱いてもいい?」


「なに?話したいことは終了なの?」


「うん、ごめん、なんか、疑うみたいなこと聞いて」


「ううん、私の方こそ、誤解させるような行動しちゃって。

今後、気をつけますね。

で、電気も消しますね~」

と、おどけた口調で言った。

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