第39話 電話

 俺は、買ってきた弁当を食べるのも忘れて、スマホの画面を見続けていた。


keigoがピアノの弾きがたりで歌った歌詞を、何度も読んでみた。

なんてゆうのか……嫌な感じはしなかった。

ずっと抱え込んでいた想いを、直接 柚希本人に伝えることができて、楽になっただろうな。

会って話した時の須藤桂吾の顔が思い浮かんだ。

この歌詞を即興で?

ピアノを弾きながら歌うって、すごいことだな。

あのルックスで、こんな歌まで歌われたら、そりゃ、みんな惚れるって!!


柚希は、


って、思ったと同時に、スマホのバイブが激しく震え、画面に柚希の名前が表示された。


柚希から電話!!


「もしもし」


「あ、とおる、ごめんね~!電源切ってたから」


ものすごく、いつもと変わらないトーン。


「コンサート行ってるって、お義母さんに言われたけど」


さぁ、なんて答えるのかな?


「うん、今帰って来たところ。

Realのライブに行ってきたよ~」


えっ?

それ、言うんだ?


「Real?ゆきロック聴かないのに?」


「あ、うん、めちゃめちゃロックだった!!あははっ!

あぁゆう感じのライブって、初めてだわ!

駅ビルの昔バイトしてた花屋さんへ行ったらさ、須藤君がタダ券をいつもくれるんだよって、店長に貰ってね~!

店長の奥さんも行くって言うから、一緒に行ってきたよ」


タダ券?


「須藤桂吾と話したの?」


「ううん、ただ客席から見てただけだよ。

桂吾すっごい かっこよかった!!」


かっこよかったとか言っちゃうんだ?


「こんな、有名人になっちゃうなんてね!

ほんと、びっくりだよ~!!

昔、サイン貰っとけばよかったなぁ」


サインは、俺 貰ったからあるけどね。

柚希には、見せていない。


「ネットニュースに出てるよ!

長野のライブに、余韻の人が来て、その人の為に、即興で弾きがたりしたって。

Realのkeigoが」


「すごいね~」


他人事みたいな感じでそう言った。


「ねぇ、ゆき?」


聞きたいことは山ほどある。

だけど、それを、どう聞くべきか。


「あのさ、」


ねーーーー!!ママーーーー!!もうネンネしよーーよーーーー!!


電話口のすぐ近くで奏の大きい声がした。

奏を抱っこしてる状態かな?


「とおる、ごめんね。

とりあえず、奏を寝かしつけるね。

電話、またあとでかけるから」

と、柚希は小さな声で言った。


「いいよ。俺も風呂入って寝るから。

柚希も、奏と一緒に寝ちゃってもいいよ」


「ほんと?じゃ、電話、明日でいい?」


「うん、また、明日 おやすみ」


「パパ!!おやすみ~」

 

いつの間にか、奏に代わっていて、パパ!!おやすみ~って言った直後にブチッと切られた。


奏、切るなよ~。

柚希のおやすみが聞きたかったのに。



9時50分か。

ライブが終わって、そのまま帰って来たって時間だな。

Realのライブは、長野で2days。

今日、明日だ。

今日このあと、これから、須藤桂吾と密会とかはないよな?

明日は?

昼間に密会ってあり?

それこそ、ネットニュースか文春オンラインに載るだろう。

柚希のことを信じたい。



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