第36話 矢沢弘人 3

 俺は、1ヶ月に1度くらいのペースで、矢沢弘人に電話を掛けていた。

いつも、一言で切られる。


それが、今回は違った。


「マジでしつこいんだけど!!なんなんだよ?」

と、言われた。


「お会いできないでしょうか?」


「だから、なんで俺に会いたいわけ?」


「柚希のこと、今でも好きですか?」


「は? はぁ?

なに言ってんだ?

再婚だけどさ!俺、普通に結婚してるんだけど!」


「はい。それは、存じ上げてますが」


「じゃぁ、今でも好きですか?って、おかしくね?

ゆきとつきあってたのは、もう20年前だろ?

そんな、昔の女のこと、ほとんど覚えてないんだけど!!」


覚えてない?

そんな訳ないだろ?

だけど、


「そうですか。失礼しました。

もう、お聞きすることはないです」


そう言って、俺の方から電話を切った。



矢沢弘人……


柚希の初カレ。

中2から高校卒業して遠距離になるまでの4、5年の間つきあっていた相手。


確かに20年前のことだ。


矢沢弘人は、1度離婚歴があって、今は再婚相手との子どもも生まれている。

さっきの言葉を額面通りに受け取っていいのだろうか?


‘’ そんな昔の女のこと ほとんど覚えてないんだけど ‘’


柚希は、きっと今でもしっかりと覚えているだろう。

つきあい始めたきっかけから、別れまで。

その別れを、消化しきれてないんじゃないのか?

心残りがあるんじゃないのか?


いっそ、柚希に直接聞いてみようか?

いや、岩田が言ったように、

‘’何を今さら?‘’

って、笑うだろうな。

でも、それは、本心ではない気がする。

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