第27話 岩田忠志 2

 「失礼ですが、今も独身だそうですが、北海道の その女性とはどうなったんですか?」


俺がそう尋ねると、岩田はギッと睨みつけた。


「知ってて聞いてくるって、だいぶ意地が悪いんだな!!」

声を荒らげて言った。


「知らないから、聞いてるんです。

あなたのことを調べてきたって言いましたけど、私が調べたのは、あなたが東京の本社から長野支社に、今年戻ってきていること。

だいぶ出世されていること。

それと、今 独身であるってことだけです。

私は、警察官ですが、神奈川県警ですし、交通課なので、そもそもいろんなことは調べられませんから」


岩田は、俺を睨みながらビールを飲むと、ふ~と大きく息を吐いた。


「なんで、そんなことを答えなきゃならないのかな。

事情聴取じゃないんだし」

と、小さく言った。


事情聴取?


は~と、ため息をついて、

「国際ロマンス詐欺って言えばわかるのかな?」

と、言った。


「国際ロマンス詐欺?

それは、わかりますが、何の関係が?」


「北海道の人ってしか言ってないけど、自称北海道在住のロシア系ハーフの女。

詳しく話す気にはならないけど、私が運命の人だと思って、恋に落ちたのは、詐欺師だったってこと」


「えっ?詐欺師?」


「結婚資金とか、マンション購入の頭金くらいのつもりに蓄えていた金をだまし取られたよ」


マジか…………


「でも、不幸中の幸いだったのは、お金を取られただけだったこと。

当時会社で、重要な新規のプロジェクトに参加していたから、その情報を盗むことが目的じゃなかったのは、幸いだった。

会社も辞めずにすんだしね。

取られた金額は、数年でまた貯まったし。

金は貯まったけど、だいぶ懲りてしまって、結婚は出来ずに独身ですよ」


「そうだったんですか。

プロの詐欺師に狙われたら、多分誰でも引っ掛ってしまうと思います」


「あ、そうゆう慰めは、要らないですよ。

あなたに言わると、余計に自分自身が、惨めで

腹立たしくなるんで」


そりゃ、そうかもしれないけど……


「諸々のことが終わった後、1度だけ柚希ちゃんに電話をしました」


えっ?

ってか、急に柚希ちゃん呼び?


「いつですか?」


「11月くらいだったかな。

会って謝って、あわよくば復縁をお願いしようと思って。

やっぱり、自分には柚希ちゃんだけだ、なんて、結構 憔悴していたので」


「話したんですか?」


「えぇ。

あ、いえ……

借りてたCD返したいから、会えないか?って言ったんですよ。

そしたら、返してもらわなくていいよって。

わたしも彼氏が出来てね、神奈川の人だから遠距離恋愛なんだけど、頑張ってるところなんだ。

お互いに、遠距離、頑張ろうね!って。

その人に心配かけたくないから、もう電話もしてこないで、って言われましたよ」


俺に、心配かけたくないから……


「その人ってのが、あなただったわけですね。

その時、それを言われて、私は憤慨しましたよ。

いや、柚希ちゃんに対しては そんな態度は出しませんでしたけどね。

3年近くつきあってた恋人にフラレた途端に、すぐに別の相手をみつけるなんて、結構な あばずれだな!!ってね」


「あ!?アバズレだと!!」


「そう思わないと、やってられなかった……

自分の馬鹿さ加減に……とても……堪えられなかった……」

そう言って下を向いた。


「あんなことがなければ……柚希ちゃんの誕生日にプロポーズしていたかもな……

あの時だったら、私のプロポーズを、柚希ちゃんは受けてくれたんじゃないのかな……

そしたら、あなたが告白しに来たって、断られたんじゃないのかな……

……そんな、タラレバの話をしても仕方ないですね……

……あなたは、何を知りたいんですか?

私から聞けるのは、10年も前の出来事だけですよ。

あなたの隣りには、彼女がずっと一緒にいるんだから、過去ではなく、今の彼女を見ていればいいんじゃないんですか?

私とのことだって、彼女に聞いてみたらいいじゃないか。

何を今さらって笑われるんじゃないですか?」


その通りだ……


柚希は、俺との結婚を選んでくれた。

子どもたちもいる。

なんの不満もない生活。


俺は、何を探しているんだろう?


それを探す意味はあるのだろうか?


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