第25話 長井康之 2

 「あの年、新入社員で本社勤務の女子社員は

4人だったと記憶しています。

それぞれ、配属部署も違っていたし、わたしの

部署には誰も入ってこなかったんですが。

あの当時、テニスサークルという社内のサークルがありまして、若手社員は大勢参加していたんですよ。

わたしは、それの幹事的なことをしていたので、新入社員は勧誘したりしていました。

中野は、あ、柚希さんは、目立つタイプではなくて、大人しくて聞き上手で、周りに気くばりが

できる子だなと思っていました。

わたしの後輩の山口と、総務部の河野さんがつきあっていたんですが、結婚も間近って時に、まぁ

デカいケンカになって、その時に

‘’中野柚希ちゃんみたいな子の方が良かった‘’

とか なんとかって、河野さんの後輩の 中野の名前を山口が出したみたいで、河野さんが激怒したってことがあったんですよ。

中野は、ただのとばっちりだったんだけど、河野さんが直の先輩だったから、それから仕事中も

キツくあたられてるのが見受けられて。

それでも中野は、弱音を吐くこともなく頑張っていた。

その健気さとかひたむきさに、気づいたら惹かれていたって感じだったのかな。

部署は違っていたけど、社内でも声を掛けるようになって、食事に誘うようになって、体の関係になりましたね」


体の関係……

わかってて聞いてるのに、いざ 体の関係って言われると、だいぶ嫌な感じだな。


「中野と出会った時には、わたしには婚約者的な彼女がいたので、わたし自身も、中野にはのめり込まないようにと、ブレーキをかけながら つきあっていたんです。

いわゆる二股ってやつだったんで。

だけどね、つきあうほどに、中野にのめり込んでいってね。

だいぶ、振りまわしていたと思います。

これ以上中野にのめり込まないようにと、彼氏をつくるように言ったのもわたしです。

ちょうどそんな時に、婚約者の彼女が妊娠して、でもすぐに流産しちゃったんだけど、彼女の親にも結婚をせかされて、結婚しました。

1度目のね」


「そうでしたか……」


「わたしが結婚してからは、誘っても応じてくれなくなりましたね。

二股はよくても、不倫は、中野の倫理観には、なしだったんだと思います。

その時に中野が交際していた人は、わたしとは違って、とても真面目で堅い人だと言っていました。

何年かつきあったら、その人と結婚するんだろうなと思っていましたね」


結婚……

岩田忠志か。


「でも、2年後くらいだったか、その人とは別れたようなことを、社内の噂で聞いて、

じゃ また中野を誘ってみようかな~なんて思ってた矢先に、あなたが会社に現れたんですよ。

遠距離だって聞いたし、そりゃ取るに足りないって思ってた。

それが思った以上に、あなたは強敵だった。

社員旅行で横浜へ行った時、中野にキッパリとフラレました。

そもそも二股とかもね、性に合わなかったんだと思いますよ。

一途な愛情をくれる相手に、一途に尽くすタイプなんでしょうね?

こんなことを、わたしから聞かなくても、あなたの方がおわかりになっていると思いますが」


そうだよな。

わかっている。

柚希は、俺の想いを受けとめて、それ以上の愛情を俺に返してくれている。


「あなたとの交際の前につきあっていた人のことを、彼女から聞いたことはありましたか?」


「わたしの前につきあっていた男?」


アゴに手を当てて、う~んと うなった。


「そうですね。

他の男の話は聞いたことは、なかったですね。

彼女は、人見知りだと言っていました。

学生時代は、男の子とは全然話せなかったって言っていたかな。

あ、でも、あなたも剣道部でしたっけ?

部活の話とかの中に、男の子の名前は何人か言っていたと思いますが。

つきあっていた男の話ってゆうのは、なかったように思います。

う~ん……だからと言って、男と付き合うのは、初めてではないってのは、まぁね、わかりましたけど。

自分もカノジョがいての二股でしたし、中野に昔の男のことを根掘り葉掘り聞いたりはしなかったですね」


長井康之の前につきあっていたのは、須藤桂吾。

だけど、須藤桂吾の話は全くしていないのか……

矢沢弘人の話も。



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