第24話 長井康之

 柚希が短大を出て、就職した会社の先輩だった、長井康之。

今も、その会社にいて、営業1課の部長補佐という肩書きになっていた。


数日後、電話を掛けてアポを取り、駅前のカフェを指定された。


「神奈川県警の交通機動隊って、俺 何やらかしたかな~ってすげー焦りましたよ!」

と、にこやかに話す。


建設会社の営業らしく、人当たりがいい感じ。

今はバツ2の独身。

実家暮らしで、ご両親と一緒に3人の子どもを育てるシングルファーザーだ。


「中野の旦那さんってお伺いしましたけど、今 お会いしたら、薄っすらと記憶がよみがえってきましたよ!

あなたは、中野の誕生日に会社へ花束持って来た人ですよね?」


えっ?

厳密に言えば、誕生日の前日だけどな。


「そうです!あの時に、長井さん 近くにいらっしゃったんですか?」


「えぇ。外まわりから戻ってきて、ロビーのところの、らせん階段を上ろうとしていたところで、受け付けの子が 中野に内線かけてるの聞こえたんですよ。

中野に来客って珍しいなって、スーツのあなたの後ろ姿を見て、で、そのまま2階からなんとなく見てました。

吹き抜けになってるのでね。

で、花束出してのプロポーズにめちゃくちゃ驚きましたよ~」


あれを、見られてたのか……


「あれは、プロポーズではなくて、交際の申し込みでしたが」


「あははっ!!そうですね!!

でも、あれから、トントン拍子だったじゃないですか!

会社を辞めてからは、奥さまとはお会いしていませんが、お変わりないですか?」


「はい、元気です。

2人の息子の子育てに奮闘中です」


「そうですか!うちも、男の子3人いて、ジジババが面倒を見てくれてますけど、まぁバタバタですよ~!!」


なんてゆうのか、いいパパさんって感じ。

バツ2ってゆうんだから、まぁいろいろと問題ありなんだろうけど。

子ども、奥さんの方じゃなくて、親権こっちなのか?

3人も。


「柚希さんのことで、わたしに何をお聞きになりたいんですか?」


俺は、正直に言うことにした。


「あなたのお気持ちはわかりましたけど、結婚前のことを、結婚して8年も経ってから詮索されるのは、あまり……柚希さんは良い気分ではないと思いますが。

柚希さんには内密でってことですよね?」


「そうです」


う~~ん……、と、長井は右手でアゴの辺りを撫でた。


「何を知りたいですか?

昔の男の話なんて、旦那さんが聞いて、気持ちのいいもんじゃないと思いますが?」


そうだろうな。

きっと、聞かない方がいいんだろう。

だけど、知りたいと思ってしまう。


「どうして、彼女とつきあうことになったのか、彼女のどこが好きだったかを教えてください」

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