第18話 須藤桂吾

 矢沢弘人にフラレて、傷心だった柚希がつきあったのが、須藤桂吾。

柚希は、駅ビルの花屋でアルバイトしていて、須藤桂吾と知り合った。

この時は、須藤桂吾は駅ビルの服屋でバイトしているただのフリーターだった。

高校の軽音部の続きを趣味でやっているような、アマチュアのバンドマン。


だが、今、須藤桂吾を知らない人はいないんじゃないのかな。

フルネームを知らなくても、Realのギターのkeigoと言えば、あぁ、あの!!と、なるはずだ。

Realは5人組のロックバンド。

音楽制作会社ルピアーノの第1回のバンドコンテストで優勝し、華々しくデビューして、来年で10周年になる。

須藤桂吾がデビューしていたことは、結婚して2年目くらいの時に松林から聞いた。

デビュー曲は、ロックバンドなのに?って思うくらいピアノの旋律が印象的なバラード曲。

須藤桂吾は、作詞と作曲もしている。


『YO・I・N』


初めておまえに逢ったあの日

可憐な白百合を見た気がした

長い髪

しなやかな細い指先

汚れない凛としたまなざし

おまえには近づけなかった

俺とは世界が違う

そう思った


柚希のことを書いている歌詞だ。

別れてからも、余韻が続いているという内容。

これは、須藤桂吾の純粋な想い。

未練タラタラのラブソングだ。


柚希はその頃、生まれたばかりの長男の育児に手いっぱいだったし、もともとロックは聴かない人だから、Realのことは知らなかったと思う。


でも、その Realのkeigoが、デビューして10年になるというのに、未だに柚希のことを愛してる的な曲を作っている。

これは、無関係な人が聴いたら、ただのラブソングかもしれない。

だけど、絶妙に柚希に伝わるように作っているような気がする。

今年シングルで出したのは、ガッツリと

『YUKI』

あなたへの想いが雪のように降り積もって いつまでも消えない と、ボーカルのRYUSEI は、切なく歌う。

これは、柚希に対するメッセージ。

10周年の記念アルバムは、『Lovesickness2』

デビューアルバムの続編となる、オールラブソングのアルバム。

アルバムタイトルのラブシックネスは、恋わずらいという意味だ。

須藤桂吾は、柚希と別れてからも、ずっと彼女のことを想っている。

これは、なんてゆうか、迷惑というよりも……

ツライだろうな……と思っていた。

須藤桂吾は、Realの中でもボーカルの桜井龍聖と人気を2分するモテ男。

そのモテ男のkeigoが作る、切ない一途なラブソングを、こちらもモテ男のRYUSEI が歌い上げるのだから、破壊力は半端ない。

そうゆうのを狙っての曲作りだと思われているだろう。

当事者以外は。


これだけRealが売れている今、柚希も須藤桂吾がRealのkeigoだということは知っているだろう。でも、俺に気を遣ってか、柚希はまったくRealの曲を聴かない。

俺としては、複雑な心境だ。

須藤桂吾のこの溢れる想いを、柚希に受けとめてもらいたい。

けど……

それを受けとめても、俺から絶対に離れないで欲しい。

俺はなんて自分本位で身勝手なんだろう……

それは、重々承知の上で、俺は須藤桂吾に会って話してみたいとずっと思っていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る