第19話 須藤桂吾 2
数日後
仕事が非番の平日、六本木にある音楽制作会社
ルピアーノへ行くことにした。
ルピアーノは、Realが所属している事務所の親会社、いわゆるレコード会社というやつだが、ルピアーノは、そう言われるのが嫌なようだ。
超有名人のRealのkeigoに、アポ無しで会えるわけないのはわかっている。
それと、そもそも この会社にはいないだろう。
どこかでレコーディング?
どこかでライブ?
どこかで取材?
どこかで撮影?
忙しいミュージシャンの須藤桂吾が会社にいるわけはない。
だから、俺は “”中野柚希の夫“” を名乗って、連絡先を伝えて帰って来ようと思っていた。
“”中野柚希の夫“” に、興味がわけば、連絡してきてくれるはず。
そう思って、ルピアーノの本社ビルを訪れた。
受付けの女性に、アポイントはないんですが、と言うと、受付けの女性はハキハキと、ちょっと
ギャル口調で、
「今日、ひっさびさに、わたしもkeigoさんと会ったんですよ~!!
たぶんまだいらっしゃると思うので、聞いて来ますね~。
そちらでお掛けになってお待ち下さ~い!」
と、言われた。
えっ?いるのかよ?
数分後、受付けの女性は、高いヒールで小走りに俺に近づくと、笑顔で、頭の上で手を合わせて丸をつくった。
「まだkeigoさん、いらっしゃいました!!
お会いするそうなので、ご案内しますね~」
と、言った。
マジか!!
連絡先渡すだけのつもりでいたから、なんか、
ノープランだぞ俺!
ソファとローテーブルがあるだけの、8畳くらいの部屋に通された。
すぐに来ると思うので、お掛けになってお待ち下さいと言われた。
だけど、とても座れる気分じゃなかった。
落ち着かない……
今さらだけど、なんで俺はこんなとこまで来てんだ?
須藤桂吾には会ってみたかった。
だけど須藤桂吾に、中野柚希の夫ですけど~って、マウント取りに来たみたいじゃん。
ただ、会って話をしたかったって、そんなんだけど、そんな軽い気持ちでいいかな。
コンコンと、ドアをノックされた。
はい、と返事をすると、須藤桂吾が1人で入ってきた。
わっ!ホンモノ!!
なんか、茶髪とか金髪のイメージ強かったけど、今の髪色は、黒髪に近いダークブラウンという感じ。
長い前髪をかき上げながら入ってきた。
マジでカッケ~な!!
「えっ?キミ!……後輩くん?」
わっ!!
「さすがですね!!お会いしたのはもう10年前ですけど、覚えててくれたなんて」
結婚前、彼女と一緒に1度だけ会ったことがあった。
須藤桂吾は、その時の俺を覚えていたなんて!
10年前だぞ?
須藤桂吾は記憶力がすごいのだと、前に柚希は言っていた。
「後輩くんが、旦那さんに昇格したの?」
「あ、はい。一応」
「で?なに?自慢しに来た?」
「あ、いえ、たまたま通りかかって、ルピアーノってここにあったんだ!って思って」
ちょっとウソをついた。
「そうなんだ!たまたま、ね!
ってか、普段 俺ここには居ないからさ。
デスクワークじゃね~から。
ほんと、俺もたまたま 居ただけでさ。
このタイミングでここで捕まえられるって、かなりすげーんだけど。 彼女 元気?」
「はい!元気です!!」
「そりゃ良かった。で、自慢じゃなきゃ、なに?
迷惑だって文句言いに来た?」
「いえ、それも違います。
あなたと話したくて」
「いいけど、長い話になるかな?俺、次の仕事あっから、30分くらいしか時間とれないけど」
「充分です。ありがとうございます」
立ったまま話して、あっ、どうぞ!とソファをすすめられたから、対面で座った。
何から話したらいいのか……
「俺、中学の時からoneのファンで、5年前の来日コンサート、横アリの!行きました!」
イギリスのロックバンドoneの横浜アリーナでのライブに、Realはサポートバンドとして出ていた。
「そうなんだ!彼女も?」
「あ、いえ、彼女はその日、長野で同級会だったんで、俺だけで」
「そう」
「で、あれ見てから、あなたの、あ、Realの、
ファンになりました!」
「へぇ~マジか!ありがとう!
で? それを伝えに?」
須藤桂吾は、あははっと笑った。
「いえ、あの、最新アルバムも聴かせてもらいました……
まだ、好きなんですか?彼女のこと」
ズバリ聞いてみた。
「お、単刀直入にきたね!!
どうなんだろうな。
わからないってのが、正直なところ。
いろんな手を使えば、彼女のこと調べたり、再会する場を設けてもらったり、そんなことできるんだろうけど、してこなかったし。
再会したところで、何も始まりゃしないって諦めてっからだと思うんだけど。
って、それを彼女の旦那さんに語ってるのも、
すげーカッコ悪り~んだけど。ハハハ」
かっこわりーって言ったけど、須藤桂吾は超かっこいい!
茶色い瞳に見つめられると、吸い込まれそうだ。
「会いますか?俺も同席させてもらいますけど」
「あはははは~!!遠慮しとくよ。
旦那の目の前で口説けるほど、図々しくないよ!!
それとも、ラブラブなところを俺に見せつけて、息の根を止めたいとか?」
「あ、いえ……」
やっぱり、ただマウント取りにきたって思うよな……
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