第31話 言いづらい……

 言いづらい……

マジでこれ、なんて伝えればいいんだよ?

ってか、伝えたってていで、断っちゃう?

柚希は会いたくないって、って。


いや、これ、今度正月とかに実家帰った時とか、ぜってーこの話になるもんな~!!

姉さんって、強かったんすね?

みたいな……

うーーーーん……


あ、柚希に言いづらいから、伝えてないけど、

敷石ケ濵さんには丁重にお断りして!!って、

隼に伝えて、で、敷石ケ濵さんの話題は、柚希の前では絶対にすんな!!ってクギをさすか?


いや、あいつは、酒が入ると、ペラペラ ペラペラ喋んだよな~!

ぜってー!言いそう!

なんなら、兄さんに姉さんには言うなって言われてたけど~、とか、言いかねない。


うーーーーん……

しゃーない……

柚希に伝えるか……



 次の日の夜、寝室で

「柚希、話したいことあるんだけど……」

と、言ってみた。


「あ、やっぱり?なんか、昨日から、わたしに何か話したそうだな~って思ってたよ。

なに?何か高いモノでも買いたいの?」


えっ…………

昨日から、俺が話したそうにしてたの気づいてたのか……

すげーな!!

気づいてても、詮索してこないんだな。


「いや、そうじゃないんだけど……

敷石ケ濵さんって覚えてる、よね?」


「ん?佐古の敷石ケ濵亮子さんのこと?」


フルネーム!!


「うん、そう。

隼、今 佐古高校の剣道部の顧問してんだけど、敷石ケ濵さんがコーチで来てるんだって。

で、梅原高校の中野柚希さんって姉さんのことだよね?って。

敷石ケ濵さん、ずっと柚希のこと探してたんだってさ」


「え~すごいね~!わたしの名前覚えててくれたの~?

1回戦であたっただけの相手の名前を?」


「でね、会いたいんだって。

お手合わせ願いたいって」


「あははははっ!!お手合わせ!!あはは!!

もう、とっくに辞めちゃってるから、お手合わせはできないけど、お茶することはできますよ!って伝えて~」


「えっ?会うの?」


「うん、だって、会いたいって言ってくれてるんでしょ?

隼くんもお世話になってるなら、お会いした方がいいのかなって思うし」


「えっ、隼に気を遣ってんなら、別に大丈夫だよ!」


「あぁ、ううん。 今、横浜こっちにいて、私ママ友くらいしか話す人いないし、なんか珍しい人とお茶するのもいいかな~って。

お正月に長野に帰った時とかで都合が合えばって思うけど」


マジか……

敷石ケ濵なんて、嫌な思い出でしかないんじゃないのか?

もう17年くらい経ってて平気になったのか?


「とおる、私に気を遣って言い出しにくかったんだよね?

ごめんね、気を遣わせちゃって」


「あ、いや、嫌な思い出なんじゃないのかなって」


「そっか、そうだね。

とおるのご家族との初めてのお食事会のあと、なんか、とおるに八つ当たりしちゃったよね。

そうだな、う~ん 今となっては、別に1回戦だろうが決勝戦だろうが、優勝じゃない限りは誰かに負けてた訳だし。

敷石ケ濵さんじゃなくてもね。

あれは、丁度いい引き際だっただけだよ~」


丁度いい引き際……

そうか?

そうなのか?

柚希の本心はわからない。

剣道を好きだった柚希は、今は剣道を嫌いになってしまったのか?

それは、なんだか怖くて聞けない。

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