第29話 別の誰かを

 須藤桂吾、長井康之、岩田忠志。

まったくタイプの違う3人だった。


その3人が口をそろえて言うのは、柚希は穏やかで、清らかだったと。

それは、俺も感じている印象。


そして、3人とも、別れているのに、柚希に想いを残している。

嫌いになって別れたわけじゃないってこと。


それで、何がわかったというんだろう。


柚希は、付き合っている相手と向き合いながらも、心の奥底では、違う感情も抱えていたんじゃないのか?

そして、それは、今も……

どうしてそんな風に考えてしまうんだろう。

俺は、柚希のことが好きすぎる。

俺の想いと同じ大きさの想いを、柚希にも抱えて欲しいと思ってしまう。


俺のことを愛してくれている。

子どもたちを愛してくれている。


だけど、心の奥では、奥底では、別の誰かを想っているのではないか?と思ってしまう。


それは、俺が思い浮かぶのは1人しかいない。


矢沢弘人



会ってみるか……

矢沢弘人に。




 数日後、矢沢弘人に電話をかけて、倉田と名乗った。


ほんのちょっとの沈黙のあとで、


「ゆき、の?」

と、聞かれた。


‘’柚希の、ダンナ?‘’ 

という意味だと思って、

「はい」

と、答えた。

そして、お会いして話したいと申し出た。


が、矢沢弘人は、話すことは何もない、と言った。

断られると思ってなかった。

だって、他の3人は俺と会ってくれたし。

いろいろと話してくれたし。


矢沢弘人は、一方的に電話を切った。


‘’話すことは、何もない‘’


何をそんなに話したくないのか?

柚希のダンナである俺とは会いたくないってことか?

柚希のことには、触れたくない、ということか?

それだけ、まだ、柚希に対して 想いがあるってことか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る