第21話 須藤桂吾 4

 「あの、もうお忙しいですよね!!

1つだけ、お会いできたら、絶対お伝えしたいと思ってたことがあって!」

俺は早口で言った。

これを絶対伝えたいと思ってここに来た訳じゃない。

だけど、この人には、伝えてあげたいという気になっていた。


「まだ、大丈夫だよ。俺に伝えたいことって?」


俺は、ソファに浅く座り直し、背すじをピンと

のばした。


「あなたは、彼女のことを、

‘’手に入れられなかったから、忘れられないのか‘’ って、歌詞で書いてましたけど……

手に入れたから、忘れられないんじゃないかって思います」


「何を?俺、なんも手に入れてね~んだけど?」


「……彼女の、はじめてをもらってますよ」


真っすぐに、須藤桂吾の目を見てそう言った。


「初めて?って?何が?……えっ?初めて?」


「あなたが……初めての相手だと、彼女は言ってました」


「は?えっ?ちょっと、ちょっと待って!!

だって!元カレいたじゃん!!すげー長く付き合ってたってゆう、イケメンの元カレ!!」


矢沢弘人の存在も知ってるんだな。


「高校時代は、そうゆうのなくて、そうなる前に矢沢先輩とは終わってしまった、と」


「……マジ、かよ……」


「だから、手に入れられなかったんじゃなくて、あなたは最初に手に入れていたんですよ。

彼女のたった1つの大事なモノを。

それを手にしてるから、忘れられないんだと思います」

言っちゃった……


「なんで……

旦那さんが、なんで、そんなこと俺に教えてくれんの?」


「……あなたが、苦しそうだから……

俺も、彼女に長く片思いしてたんで、なんてゆうのか、気持ちはわかるって言うのか……

だからって、彼女は絶対渡しませんけど」

キッパリと言った。


「……マジか……優しいんだな。

倉田くん。ありがとう」

小さな声で、須藤桂吾はそう言った。


「あと、彼女、ロックは聴かないって言いましたけど、昔からクラッシックが好きで、あなたとshunさんのCDはよく聴いています」


「えっ?バイオリンとピアノのCD?」


「はい。すごくいいって言ってます。

逆に俺はクラッシックはよくわからないんですが。

keigoさんの音が、有名な誰だかの音に似てるって」


「俺のバイオリンの音?」


「あ、はい。……えっと、マリアなんとかって」


「……マリア、……マリア・ステファニー?」


「あっ!!そうです!!その、マリア・ステファニーの音に似てて、きれいな音色!って」


「あはははは~!まいったな……

バイオリニストのマリア・ステファニーって、

俺の母さん」


「えっ!!」


「だけど、これ、どこにも公表してねぇから、わかるはずね~んだけどな!あはははは!

彼女に母さんの話をしたこともなかったし、そもそも俺がハーフとかも知らねーんじゃね?

ありがとうって彼女に伝えといて、って、ダメか。

倉田くん、俺と会ったこと彼女に内緒にするつもりだよね?」


「あ、はい……」


「んじゃ、いいや!ありがと!倉田くんと話せて良かったよ」


「いえ、こちらこそ」


「あ、俺もう行かなきゃだけど、倉田くんはまだ時間あるの?」


「はい、今日は非番なので」


「じゃ、スタッフ来るまで、ちょっとここで待っててくれる?」


「あ、はい」


「じゃ~ね~!」


「keigoさん!応援してます!」

立ち上がり、大きな声で言った。


「うん!サンキュー!じゃ!」



行ってしまった……

かっこよかった……


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