第15話 俺の卒業式

 その年の冬、剣道部の山下が駅ビルの花屋で、中野先輩がバイトしていたと言った。

山下は、先輩に声をかけていっぱい話してきたって。

驚いたことに、矢沢弘人とは別れたと言っていたと。


別れた??

まさか!!って、信じられなかった。

自分で確認したい!

そう思って、次の土曜日に、俺は先輩のバイト先へ行ってみた。


いた!!


10ヶ月ぶりに見た先輩は、長い髪を高い位置でおだんごに結っていて可愛かった。

花屋でバイトって、花が好きな先輩らしいな。

花に囲まれて、優しい穏やかな顔をしていた。

うっすら、メイクもしていて、大人っぽく見えた。

そもそも、俺は学校でしか先輩を見たことがなかったから、私服姿もドキッとした。


せっかく意気込んで行ったけど、高校生の俺は、いかにも高校生でしかなくて……

結局 声をかけることはできずに、帰ってきた。


ここに来れば、先輩に会える!

何回か行っては、先輩の顔を見て帰る。

今思えば、ストーカーっぽいけど、そんなことをよくしていた。


 

 そして、3月。

俺の卒業式の日。

卒業式が終わってすぐ、そのまま先輩の元へ向かった。

店に先輩の姿をみつけた。

居てくれて良かった!!


「中野先輩!」

と、後ろから声をかけた。

これが1年ぶりの会話だ。


「えっ!倉田くん!

わ~久しぶり!なに?偶然?」


「いえ、山下に聞いて。

花束、プレゼント用にしてもらえますか!」


「あ、はい。なに?彼女にプレゼント?

あっ、今日卒業式?」


「あ、はい」


「どうゆう感じの花束がいいの?」


「えっと、先輩が好きな感じで」


「え~~、そうゆうの難しいな~。

じゃ、可愛くつくるよ!ブリブリでね!」


そういうと、先輩は何種類かの花を選んで、話しながら器用に花束をつくっていった。

俺はただ、先輩の手もとを見ていた。

白くて細くて長い指。

きれいだな。


「倉田くん、全国大会おめでとねー!!すっごいよね!全国大会出れるなんて!羨ましい!

よく頑張ったね!!」


「いえ、そんな……」


「はい。出来たけど、これでいい?」


花もリボンもラッピングも、ピンク系の女の子らしい花束だった。


「ありがとうございます。おいくらですか?」


「いいよ!私からのプレゼント!

去年、卒業式にお花貰ったしね!そのお返し!

はい、どうぞ!

倉田くん、卒業おめでとうございます。

お疲れ様でした」


今まで、俺に向けられたことのないとびきりの笑顔でそう言われ、ドキドキした。

キュンとしたって方が正しいのかな。


「あ、ありがとうございます!

あの……先輩、先輩は、今……」

言いかけたその時、他の客が

すみません!お願いします! と、声をかけた。


「はい!

ごめん倉田くん!彼女によろしくね!」


彼女??


“先輩は、今、付き合ってる人いないんですか?先輩のこと、ずっと好きでした!

僕と、付き合って下さい!”


そう言いたかったのに、言えなかった……


俺はやっぱり、この人のことが好きだ。

会えなかった間も、やっぱり忘れることはできなかった。

先輩のことが大好きだ。

だけど、今の俺じゃダメだろうな……

先輩にとっては、ただの後輩の1人でしかない。


ちょっと離れたところで立ち止まり、先輩の姿を目に焼き付けた。

そして、先輩がつくってくれた花束を抱えて、ただ家に帰った。



 俺は神奈川県の大学へ進学し、みっちりと剣道漬けの日々を過ごした。

その後、警察学校へ行き、神奈川県警の警察官になった。


先輩との再会は5年後になる。

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