第6話 彼氏がいる

 入部して2ヶ月経った頃だったか、中野先輩に彼氏がいることを知った。


いつものように俺たちが渡り廊下を走っていると、そいつは中野先輩に向かって、ゆき!と呼んで歩いて来た。


1年女子が、矢沢先輩かっこいい!!と、キャーキャー騒いだ。


矢沢弘人


2年のバスケ部。

この人は、人気があって、やたらモテる人だとは思っていた。

それが、まさか、中野先輩の彼氏だとは驚いた。

しかも、中学の時からつきあっているのだと。


なんでだよ?

なんてゆうのか、意外だった。

中野先輩は、とても、普通の人だったから。

ものすごく、かわいいとか、キレイとかではなかった。

こう言っちゃなんだけど、矢沢弘人のカノジョなら、もっと華やかな、誰が見てもカワイイ!!って女の子なんじゃないのか?

噂によると、中野先輩がってゆうよりも、矢沢先輩が中野先輩にベタ惚れなんだと聞いた。

ってことは……俺、これ、ずっと、片思いかよ?

矢沢弘人が他の女に乗りかえるとかしない限り、俺には立ち打ちできないのか?


「あっ、えいちゃん、どうしたの?」


中野先輩は、彼氏の矢沢弘人を

“”えいちゃん“”

と、呼ぶ。

中学時代のあだ名が、矢沢永吉からきている

“”えいちゃん“” なのだと。

彼氏をあだ名で呼んでるのも、意味不明だけど、中野先輩が呼ぶ “”えいちゃん“” って響きは、優しくて、なんだか、すごくいいな~と思ってしまった。

悔しいけど、お似合いのカップルだ。

ちょっと何か話をして、矢沢弘人は帰って行った。


部活中の中野先輩は、彼氏がいるなんて浮ついた感じはまったくなかった。


いつもいつも、松井田先輩と稽古していたけど、仲が良いという感じでもなく、どっちかと言うと信頼関係なのか?

同志とでもいうのか。

試合形式の稽古をしている時なんかは、松井田先輩は体当たり的な打ちをしたりする。

187センチでがっしりした体格。

それが手加減なくぶつかると、吹っ飛ばされる。

吹っ飛ばされて尻もちをついているところをよく見かけた。

ケガしそうで心配になるが、中野先輩は手加減なく当たってくれる松井田先輩を信頼している感じ。


それと、佐久間先輩は、中野先輩のことを好きなのかな?って思っていた。

前に、中野先輩に

「矢沢と別れて、オレと付き合おうぜ!」

と、言ったらしい。

そしたら、 “”かかと落とし“” くらった、そうだ。

中野先輩が、“”かかと落とし“” ?

“”ハイキック“” とも言っていたか。

ま、話を面白おかしく、盛っているのだろうけど。

 

とりあえず、中野先輩は、矢沢弘人と別れる気はなさそうだし、2人のつきあいは順調のようだった。


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