第4話 指導係

 剣道部の3年生は、男子12人、女子6人。

2年生は、男子9人、女子5人。

1年生は、俺を含めて男子19人、女子10人が入部した。

例年、1年生は入部して半年で半分に減ってしまうとのことだった。

梅原の剣道部、厳しいことは想像できる。

そこに入るのは、それなりの覚悟で入るはずなのに、半数が退部してしまうというのは、想像を超える厳しさなのだろうか。


3年生の先輩たちが引退するまでは、1年生は道場で剣道はさせてもらえないと言われた。

体力づくりと基礎トレーニングだそうだ。

経験者も?

多少納得いかなかったが、郷に入っては郷に従えということと理解した。


剣道場は、学校の敷地の外れにあって、そこへ続く屋根付きの長い渡り廊下になっている。

そこを、一列でぐるぐると走り、そのあとに腕立て伏せ、腹筋、背筋などやる。

そして、竹刀を持って素振りをする。

三挙動、二挙動、早素振りなど何回も。

こうゆうのをやるのは、久々だ。

最近は剣友会の方でも、防具をつけての実践的な稽古ばかりしていたから。

やってみると、何気にキツかった。

あれっ、素振りってこんなキツかったか?


俺たち1年生の指導をしてくれたのは、2年生の中野柚希先輩。

なんで、中野先輩が指導係だったのかはわからないけど、とにかく俺は毎日毎日部活に行くのが楽しみで、しょうがなかった。



数日後

初めて中野先輩が俺に話しかけてくれた。


「倉田くんは、何歳からやってるの?」


何歳からやってるの?


頭の中で、復唱してしまった。

剣道を、って、はなしだよな?


「たぶん、4、5才だと思います」

「そうなんだね。強いでしょ?」

「えっ?」

素振りをしているだけなのに、そんなん わかるのか?

「いえ、まだまだです」

と、答えた。

中野先輩は、笑って、

「強いのは、見ればわかるんだけど、もっと強くなる為には、自分流になってるクセを直して、正しい姿勢を意識してみたらどうかな?」

と、言った。


クセ


よく、親父や、剣友会の先生にも言われること。

それを、たった素振りをしているだけで見抜いたのか?

すげー!!

俺は、ますます中野先輩を好きになった。


中野先輩の剣道は、なんてゆうか、ひと言で言うと、美しい。

川の流れのように、しなやかだ。

強い当たりも、さらっと避けたり、いなしたり。

見ていてきれいだなといつも思う。

正中線の取り方が上手いんだな。

構えも姿勢もお手本のようだ。

だから、1年生の指導係なのかな?

今年入った1年の三分の一は初心者だったけど、この教え方だと分かり易いだろう。

なぜそうなのか、なぜこうゆうことをするのか、とか、理屈でも教えてくれて理解できる。


部活は、放課後だけだったけど、中野先輩は朝早くきて、ランニングをして、素振りをしている。

放課後は、誰よりも早く道場に来て、松井田先輩と稽古する。

そして、そのあとに1年生の指導をする。

教え方は優しい。

人に優しく、自分には厳しい人だ。


普通は、そうゆう人柄を知って、だんだんと好きになっていくものだろう。

だけど、俺は、一目惚れして、そこから人柄を知って、ますます好きになっていった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る