第3話 一目惚れ

 環境というのは大事だと痛感した。

高校では、ガッツリ剣道やりたいな!と思った。

どこの高校を目指すべきか。

ここ数年は、私立の佐古高校が強いと聞いている。

だけど、俺は公立の梅原高校を志望することにした。

梅原高校は、親父の出身校。

県代表として、全国大会も何度も行っている伝統校だ。

この2年は、惜しくも準優勝で、全国大会の切符は逃していた。

この学校なら、ガッツリ剣道やれるのは間違いない。

俺が梅原に行きたいと言うと、親父も喜んだ。

偏差値は、あまり高い高校ではないから、そこまで受験勉強を頑張ってやらなくても入れそうだし、入ってからも楽だろう。

梅原で、剣道の実績をあげて、推薦で大学へ行けたらいいな~って考えていた。



 俺は、あまり勉強しなかったけど、すんなりと梅原高校に入学することが出来た。

部活見学は、まったくどこも見ずに、入部届けを持って剣道場へ行った。 



そこで俺は、運命の人と出会った。

その人は、今も好きで好きで仕方ない人。

今は、俺の妻になっている人だ。



剣道場に近づくと、大きな声と、パーン!と面を打つ音が響いていた。

大体、音を聞いただけで、それがどんな打ちなのかはわかる。

男の人と、女の人の声、2人とも良い打ちをしている音。

道場の入り口で上履きを脱ぎ、失礼しますと、

一礼をして中に入り、入り口付近の下座に正座して座った。

まだ、時間的にも部活は始まっていないようで、他の先輩達はまだ着替えてもいない人もいる中で、2人でひたすら交互に面打ちだけをしていた。

垂れのところの名前を見ると、男の人は松井田先輩、女の人は中野先輩。

松井田先輩は、すごく力強い打ち。

中野先輩は、流れるような綺麗な打ちをする人だなと思った。

パーン!と良い音をたてる。

何本か面打ちをして、蹲踞そんきょして終わらせた。


中野先輩が面を外して、手ぬぐいで顔を拭いて、横目でチラッと俺を見た。

それは、ほんの一瞬だったろう。

長いまつ毛でまばたきした。

ドキッ!!

っと、して その瞬間に一目惚れした。


一目惚れなんてものが、この世に本当にあるなんて思いもしなかった。

都市伝説的なものだと思っていた。

初めて会った人を好きになるなんて、ありえないだろ!

だけど俺は、確かにその時 中野先輩を好きになったんだ。


4月15日、俺の16才の誕生日だった。



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