こんな俺だけど

@nikodon

こんな俺だけど

「マリー、お前を追放する」


 そう言ったのはパーティのリーダーで、ハンス。

 重戦車みたいな体をしてて、いつも重たい鎧を身にまとっている。職業は戦士で、クラスはAランクだ。

 

「え……? ゴメン、今なんて言ったの?」


 我ながら情けない声で聞き返した私ことマリー。

 職業は回復魔術師。

 クラスはC。まあ、良くも悪くも普通。

 

 でもだからって、パーティの役に立ってないわけじゃない。

 炊事洗濯、物資の調達。うちみたいな貧乏パーティは人なんか雇えないから、それを私が代わりにこなしていたってわけ。


 それなのに追放? 

 どゆこと?


「だって貴方、後ろに控えてるだけで戦いの役に立たないじゃない」


 そう言ったのは魔法使いのジェーン。

 彼女のクラスは特級。

 その力は、集団で襲ってくるゴーレムを魔法で一掃できるほど。


 そ、そりゃ、貴方の魔法に比べたら、私のは地味かもしれないけど、


「でも、回復役がいなかったら、困るでしょ?」


 ショックのあまり声が震える私。

 そんな私にジェーンは馬鹿にしたように言った。


「ざーんねんでした。私も回復魔法使えるようになったんだよねー。しかも蘇生も出来るよ。あんた出来ないでしょ?」


 うぐっ!

 い、いつの間に……。

 

「そんなわけで君はお払い箱だ」


 そう言ったのは弓矢使いのジェレミー。

 細面の美男子で、女の子にもてる。てか、彼自身も女性に優しい……はずなんだけど。


 すごく冷たい目で私を見る……どうして?


「で、でも私、お料理とか、頑張って……」

「言っていいかな? 君の料理は実に不味かった。正直もう食いたくない」

 

 腕組みし、ため息交じりに言うジェレミー。

 

 私はついに泣きだした。酷いと。

 

「泣かれてもなあ。これは決定だ。君にはパーティを抜けてもらう。そして」


 ばさ、と、ハンスが私の前に大きな花束を差し出した。


「俺の嫁になってもらう。これも決定だ」


 わんわん泣いてた私。

 ハンスの言うことが最初はよく分からず……。


 およそ三分後。


 へ? とわれながら間の抜けた声が口から洩れた。


 気が付くとハンスが目の前で、跪いている。



「俺と結婚してください。マリー。こうでもしなきゃ君を守れないから」


 ちょ、

ちょっと。これ。


「yesって言ってあげなよ。マリー」

  

 そう言ったのはジェーン。

 何でもハンスの頼みで回復魔法覚えたんだって。

 

「君の美味しい料理を彼に独り占めさせるのは業腹だが仕方ない」

 

 そう言ったのはジェレミー。

 後から聞いたんだけど、私の料理って知らない間に私の魔力が降りかかってて、

 食べるとすごく体調がよくなってたんだって。


「いつも笑顔でパーティを盛り上げてくれて、そんな君を失いたくない。ハンスはそう言ったんだ」


 ……そうだったんだ……。


 私は目の前の、跪いている大きな熊みたいな殿方を改めて眺めた。

 こんな大きな体のどこに、そんな気遣いが隠されていたんだろう。


 彼は私を私以上に見つめてくれた。

 心がどんどん暖かくなるのが分かる。


「ハンス」

 私の呼びかけに、泣きそうな顔でこちらを見るハンス。

「プロポーズ、謹んでお受けします」

 私がそう言うと、彼は爆発したように喜んだ。イヤッホー!って。





 こんな俺だけど、君を必ず幸せにして見せる。


 そう言ってくれたハンスに私は答えた。


 こんな私で良かったら。




 こんな私で良かったら……と。

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