第34話

「違いねぇ、領主はどうしようもねぇくそ野郎だったからな! “約束の血族”以外の人間が息子と関わりを持つなんて許すわけがねぇ!!」


 がはは、と豪快に笑って莉々子の言葉に同意したのはエイデンだ。

 さばさばとした口調だが、思うところが多いのはその暗い瞳が物語っていた。


「領主様はあまり領民思いな方ではない、領主らしい領主な方だったそうですね」

「そうさ! いつだってお貴族様優先の優遇政策! 南の領地とのやりとりをするための道が土砂崩れで使えなくなったってのに直しもせずに税金注ぎ込んでカジノ作りやがった! どこぞの方位主のお嬢様が大好きなんだってよ! わざわざ接待するために作りやがったんだ!!」

「ははは、“領主らしい領主”か、おとなしそうな顔してなかなかなことを言いますね」


 その会話にカイルも混ざってきた。手には美味しそうな料理を持っている。

 ミートボールがごろごろ乗ったスパゲッティにレタスとトマトだけではなくカリフラワーやチキンとおぼしきものが盛られたサラダ。白身魚のソテーに野菜たっぷりのスープ、生ハムとチーズの盛り合わせなどが所狭しと卓上に並んだ。


 いままでの食事とは雲泥の差である。

 食卓がきらきらと輝きを放って見えた。

 会話の途中だったが、思わず視線がそこに釘付けになる。

 実に久しぶりになる美味しそうな料理の数々に、唾液が口中から溢れ出てくるようだった。


 そのことに気づいたのか、ユーゴがふと、「食べていいぞ」と軽い口調で許可を出した。

 それはまるで、待てをさせていた飼い犬に食事の許可を出すような口調だ。

 瞬間、顔がかっ、と熱くなる。

 これではまるで、莉々子の食い意地が張っているようではないか。

 そろり、と視線を料理から上に上げて周囲の様子を静かに覗うと、皆苦笑してそっと視線を外してくれた。

 ますます顔が赤くなる。


(ユーゴさま~~っ!!)


 心の中で散々罵倒するが、青鷲団のメンバーは視線はそらしたままだし、ユーゴはすました顔で紅茶を堪能している。

 これ以上ただ恥じらっているのも馬鹿馬鹿しくなり、莉々子は開き直って食事をさっさと食べてしまうことに決めた。

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