第33話


「いやぁ、ユーゴさんにまさか、お姉さんがいらっしゃったとは! 全く存じ上げませんでしたよ!」


 そう言って快活に笑ったのは、青鷲団の一員であり、一番の年長者であるエイデンだった。

 ずっしりとした筋肉を携えた巨体に、もさもさとした銀色の髪に立派なあごひげ、山男のような風体をしたその男は、実は肉屋の店主であると言う。


「ユーゴさんのご家族は、もうてっきり、皆お亡くなりになったものかと……」


 いや、失敬、と自らの失言を謝罪しながら、テーブルに水を運ぶのは、青鷲団リーダーである青年――カイルだ。

 その姿は先ほどのまるで騎士然とした青いコートを脱ぎ、代わりにエプロンを掛けている。


 莉々子達は、場所をある食堂へと移していた。

 そこは、元々、ユーゴが昼食をとるつもりの店のようだった。

 そして、カイルはその食堂の店主でもあったのだ。

 こじんまりとした店内は木目調の家具で統一されており、落ち着いた濃い緑色のチェックのテーブルクロスに爽やかな黄緑色のカーテンと、色調も整えられている。

 6人掛けのテーブルの上には、可愛らしい白い花が花瓶にその身を預けて佇んでいた。


「血の繋がりはないからカイルの言うことも、まぁ、間違いではないな。前々からこちらに来るよう声をかけてはいたんだがリリィには父親が居たから、なかなか頷いてはくれなかったのさ」


 そう堂々と嘘八百を並べ立てるユーゴは机の一番上座に座り、その隣に莉々子、そのまま時計回りにエイデン、ルーク、サシャと青鷲団のメンバーが腰掛け、店主のカイルと一番の下っ端らしいエンゾだけが、かいがいしく水を出したり食器を用意したりと立ち回っていた。

 先ほど聞いた話だが、青鷲団というのはこの町の自警団のうちの一つであるらしい。町民の有志で成り立っており、皆、それぞれ自警団とは別の本業をもっているとのことだ。

 リーダーである青髪のカイルは食堂、年長者エイデンは肉屋、緑の髪をした細目の男ルークは農家、紫の髪をした快活なサシャは大工、そして一番年少のエンゾはなんと、外に出て始めに話しかけてきた八百屋のおばさんの息子で、家業を手伝っているとのことだった。


 決してビビットカラーではない落ち着いた色合いだったが、それでも色とりどりな髪色と瞳の色のオンパレードに莉々子の目はちかちかするようだった。

 あまり違和感を感じないのは、皆の顔が日本人とは系統の異なる彫りの深い顔立ちだからだろうか。


 ちなみに青鷲団の皆さんが、「俺の義姉だ」という例によって例のごとくのユーゴの非常に言葉足らずで不親切な説明を受けた瞬間に莉々子の顔を見て非常に残念なものを見るような顔をしたことはどんなに歓迎されても爽やかな笑顔を向けられても決して莉々子は忘れない。

 明らかに「え、顔が似てない」と二度見しやがったことも決して忘れない。

 しかし社会人の良識として、そのようなことは口にも態度にも出さず、莉々子はおとなしくユーゴの言葉に追従するに留めた。


「父を残していくわけにはいきません。第一、ご領主様がご存命の時に呼ばれたって行けるわけがないでしょう。つまみ出されるのがオチです」


 莉々子は自分で言った言葉で、自身の両親のことを思い出す。残念ながら、莉々子の親は二人とも、すでに交通事故で他界していた。

 亡くなったのはもう2年も前のことだ。すでに成人して働いていたため、金銭的な苦労はなかったものの、あまりに突然に一人世界に放り出されたような心地がして、茫然自失となったことを思い出す。

 そう考えると、13歳にして天涯孤独というユーゴの境遇というやつはなかなかに厳しいものなのかも知れなかった。

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