第18話

「………。よくはわからんが、とりあえず、そこに掛けなさい」


 引きつつもユーゴは莉々子に再度着席を促す。

 そこには呼び出したからには責任を持たねばならぬ、という飼い主たらん、という気概が滲んでいた。

 ふと、ユーゴのその態度に気づき、莉々子は少し冷静になる。

 自分で言うのもなんだが、ここまで騒いでそれでも投げ出さないその態度は賞賛に値すると思った。

 極悪非道な誘拐犯ながら、誠にあっぱれだ。


「一体、その“けつあつけい”とやらがどうしたというのだ」


 ユーゴのその問いかけに、莉々子は諦めて、すとん、と椅子に腰掛けると、少し考えた上で、光魔法と闇魔法に対する想像を正直に説明することにした。

 一瞬、誤魔化すことも考えたが、それだとユーゴの協力を仰げなくなってしまう。

 ユーゴの協力を仰げないということは、物品が手にはいらないということであり、この世界の知識が手に入らないということであり、何よりも、莉々子を召還せしめた闇魔法についての知識や技術を知ることができないということである。


 それはまずい。

 情報がなくては、方法を考えるもくそもなくなる。

 莉々子のこれまでの想像は、正直、そんなに大したものではない。

 なんの確証もない推論に過ぎない以上は、隠し立てする必要性も感じなかった。

 意外なことに、ユーゴは莉々子の話を興味深く思っているようだった。

 要所要所で細かい質問を挟み、じっくりと、内容を飲み込み、精査してくれているようだ。

 すべて聞き終わった後に、ユーゴは思案するように顎を撫でながら、「STというのは、そういうことを考える仕事なのか? 」と尋ねた。


「魔法のことなんて一ミリも考えませんよ」


 それに莉々子は簡単に返す。

 考えているのは、人体のことについてだ。

 もっと言うならば、主に脳みそについてのことばかりだ。

 莉々子はたまたま高次脳機能障害といわれる脳の障害のことを考えるのが好きな傾向にあるが、中には飲み込みの訓練や話し方の訓練やらと口や喉の筋肉のことばかり考えるのが好きなSTも存在する。だろう、おそらく。

 本当はバランス良くすべての分野を網羅できるのが理想的なのだろうが、まぁ、人間だから、多少の得手不得手や嗜好は出てきてしまうものだ。

 まぁ、深く考えるのが好きな人種が多い職業のような気がしないでもない。


 ざっくりとした莉々子のイメージでは、リハビリ職のうち、主に身体の運動のリハビリを行うPTは体育会系が多いし、日常で使う生活動作のリハビリを行うOTは物作りが好きな職人タイプが多い、STは……、少し、オタクっぽい気質の人間が多いような気がした。

 知識を深く掘り下げるのが好きというか、なんというか。

 そんなことはさておいて、今の莉々子にとっては


 「とりあえず、貴様は貴様のやり方で魔法の使い方を心得よ。どういった内容を考え、実行したのかは報告書にしてまとめろ。当面はそれで様子を見る」


 あと、手に入る限りの物は用意しよう。

 というユーゴの言葉の方が、すこぶる重要だった。

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