第14話

 連れ出された庭で、「とりあえず使ってみろ」と花を渡された。


「はぁ……」


 いや、使ってみろ、と言われても。

 戸惑い立ち尽くす莉々子に、ユーゴは、「意識を一点に集中させろ、今は、その花にだ」と告げる。


「光属性は主に教会の人間に重宝されるものだ。治癒や浄化に使われる」


 それは、RPGのゲームでいう所の魔法のカテゴリーと似通っている気がする。

 渡された花を見ると、適当にちぎったためだけではない、わざとらしい爪痕や傷が花弁や葉についていた。

 どうやら、これを治してみせろ、ということらしい。

 とりあえず、じっと見つめてみる。

 集中といったところで、どうしたらよいのかなどわからない。

 仕方がないので、めいっぱい、その花を睨み付けてみた。

 途端、莉々子の掌の中で爆発音が弾ける。


「……はっ、」

「おい! 何をやっている!」


 花は一瞬で、消し炭へと姿を変えた。

 ユーゴは慌てて莉々子の手を引く。

 どこにも怪我がないことを確認すると、ユーゴはほっ、と安堵の息を吐いた。


「どうやら、光属性ではなく、雷属性が出現したようだな」


 もう少し気をつけろ、と苦言を呈されたが、莉々子はそれどころではない。


「おい……?」


 黙って立ち尽くしたままの莉々子の顔をユーゴが不審に思ってのぞき込む。

 その姿勢のまま、固まった。


 莉々子は、爛々と目を輝かせて、手の中の消し炭を見つめていた。


「りり……」

「燃えました」

「………。ああ、燃えたな」

「電気が着火剤になったということでしょうか」

「おそらく、そうだろう」


 がばり、と莉々子は勢いよくユーゴを振り返った。ユーゴはその勢いに、少しのけぞる。


「これは一体、どういったメカニズムですか! 」

「めか……」


 戸惑うユーゴに、莉々子はもう構っていなかった。

 それどころではない。


「電気ウナギという自らの身体から電気を生成する生き物はいるし、人間もその活動をシナプスの興奮という電気活動に頼っている以上、体内に電気があるのはまぁ、わかる。けれどそれを指先から自らに感電させずに発生させるなんて……」


 一体、どんな魔法なのだ。

 いや、魔法なのか、これが。

 まるで理屈がわからない。

 ふと、思い至って、莉々子は再びその黒焦げの消し炭へと意識を集中させた。

 今度は、狙いを定めて、イメージする。


 再生だ。


 この花を、治す。

 変化がない。

 もう一度念じる。


 治れ、治れ、治れ。


 何も変わらない。

 首をひねる莉々子に、「それはもう治せん」と見かねたユーゴが口を挟んだ。


「なぜ」

「損傷が激しすぎる。死んだ者を生き返らすことは出来ん」


 そう言って手近な花壇から新たな花を手折って差し出す。

 ユーゴは目の前でわざとその花の茎を真っ二つに折って見せた。


「試すなら、こっちにしろ」


 莉々子はそれに飛びついた。

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